累風庵閑日録

本と日常の徒然

『中世的世界とは何だろうか』 網野善彦 朝日文庫

●『中世的世界とは何だろうか』 網野善彦 朝日文庫 読了。

 目次から、いくつかキーワードを拾ってみる。海民と遍歴する人々、中世の職能民、庭、税と交易、宴と贈り物、楽市と駆込寺、等々。「網野史学」でよくお目にかかる単語が、この本にも見える。これらのキーワードを軸に、中世の諸相を語る本である。

印象に残った点を箇条書きしておく。
・漁労、廻船、製塩等を担った海の民は、ときに農村部の富裕層を遥かに凌駕する膨大な富を蓄えていた。
・若狭の浦々は、海を通じて広大な世界とつながっていた。中国大陸とも密接なつながりを持っていた証左のひとつとして、若狭地方のある有力者の没年は、明の元号で記録されている。
・武士とは何かという問いには、観点の異なるふたつの答えがある。ひとつは、東アジア世界の中に封建社会を切り開いた「英雄」であり、惣領を中心とした主従関係で結ばれた領主。もうひとつは、殺生を生業とする「殺し屋」であり、武芸を職能とする職能民。
平清盛は、西日本の海の支配にも力を注いだ。音戸の瀬戸の修築を行い、一時的にではあるが兵庫の福原に遷都し、厳島神社平氏一門の守護神として取り込み、唐船を入手した。その先には、西国海洋国家の可能性があった。

 まだまだ箇条書きしたい項目はあるが、ここまで書いて疲れてしまった。基礎知識の乏しさ故、内容をどの程度消化できたか覚束ない。こういうのは、再読三読して味わうものだろう。

●このところ、フィクションにちと食傷気味であった。そこで気分を変えようと、今回ノンフィクションを手に取ってみた。おかげで明日からまた、フィクションを読もうという気になっている。回復である。