累風庵閑日録

本と日常の徒然

『間に合わせの埋葬』 C・D・キング 論創社

●『間に合わせの埋葬』 C・D・キング 論創社 読了。

 前半は退屈。主人公ロード警視の、バミューダでの休暇の模様が延々と描かれる。美しい景色を愛で、やたらと酒を飲み、綺麗な人妻やお姉さんにメロメロになって、全力で休暇を満喫するロード。まったくいい御身分で結構なことだが、こちとらミステリ小説を求めて「論創海外ミステリ」を手に取っているのだよ。

 肝心の事件については、真犯人の設定も解決に至る道筋も、少々心細い。決して高い点数は付けられない。それでもまったくつまらないわけではないのは、伏線の妙があるからで。多くの伏線を散りばめ、索引こそ無いものの、結末部分でそれらを丁寧に拾ってみせる。いちいち前のページに戻って、該当箇所を探して確認するのがやけに楽しい。おかげで読み終えるのに予想以上に時間がかかったけれども。

 伏線の多くは些細すぎて、読者が存在に気付いてその意味を推理するのはかなり厳しそう。だが、ほらここにこんな事を書いてあるでしょ、そらここにも手がかりがあるじゃないかと、作者が喜々として種明かしをしている様子がうかがわれて、微笑ましい。こういう稚気もミステリの楽しさの内である。