語り口が明るく軽快で、一見手軽に読めそうだけれども実際は違う。真相が思いの外複雑で、ぼんやり読んでいると結末で訳が分からなくなる。冒頭の「女優の失踪」を、ちょっと喧しい環境で集中できないままに読んでいたら、何が何やら。何度も後戻りして読み直して、ようやく全体像が理解できた。(伏字)の意味がポイントなのだと気付くのに時間がかかって、我ながら読解力の乏しさが情けない。
気に入った作品は、同じくこれもちょいと複雑な「当世やくざ渡世」と、和歌を題材にした暗号が秀逸な「盗まれた首飾」、そしてあっけらかんとした明るさが愉快な「当世内助読本」といった辺り。
梅由兵衛捕物噺シリーズでは、「心中片割月」と「新版鸚鵡石」とが好み。きっちりとミステリ的趣向が凝らされている点が嬉しい。「恐妻家御中」は落語のような味があって、これはこれで楽しい。
後続巻と読む順番が前後したけれども、これが第十巻である。第一期の十冊を読み終えたことになる。