累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ホックと13人の仲間たち』 E・D・ホック ポケミス

●『ホックと13人の仲間たち』 E・D・ホック ポケミス 読了。

 ホックが創造したシリーズキャラクター十三人が登場する作品を、一編ずつ収録した日本独自のアンソロジー。各主人公にそれぞれ個性はあるが、当然ながら味わいはみんなホックである。こういうのを読むと、また創元推理文庫でホックの作品集を出してくれないものかと思う。

 私立探偵小説の二編、ベン・スノウもの「ストーリーヴィルのリッパー」とアル・ダーランもの「火のないところに」とはどちらもオーソドックスな展開を見せる好編。特に前者は事件が大がかりだし、真相に捻りがあるし犯人の造形に奥行きがあるしで、気に入った。デイヴィッド・ヌーン神父もの「技能ゲイム」は、電話での会話のみを手がかりに期限までに爆弾魔の正体を見つけ出すタイムリミット・サスペンスで、緊迫感が上々。

 イギリス情報部局長ジェフリー・ランドもの「ランド危機一髪」は、敵国の不可解な行動の謎がやがて重大な真相にたどりつく。一言で表せる真相のシンプルさがお見事。他に、ポール・タワー巡査もの「ロリポップ警官」と秘密諜報員ハリー・ポンダーもの「危険な座」も伏線が効いていてちょっとしたもの。詐欺師ユリシーズ・S・バードもの「百万ドル宝石泥棒」の切れ味も賞玩に値する。