累風庵閑日録

本と日常の徒然

『シャダーズ』 A・アボット ROM叢書

●『シャダーズ』 A・アボット ROM叢書 読了。

 痕跡を残さない殺人法を発見したとされる怪人ボールドウィン博士と、ニューヨーク市警本部長サッチャー・コルトとの闘争を描くスリラー。一見自然死としか思えない状況で次々と死んでゆく関係者達。死体が積み重なる派手な展開で読ませるが、真相となるとどうも心細い。盛り込まれている意外性はちょっとしたもので、その点は評価したいけれども、その意外性を支える要素まで含めるとこれまた心細い。結末の処理の仕方も(伏字)ていて、ちょいと心細い。

 天才型の名探偵を組織のトップに据えるという基本設定から生じる歪が、引っ掛かってしょうがない。コルトは調査で分かったことや推理の結果を組織で共有しないのだ。困った上長である。ミステリのお約束としては、ぎりぎり最後まで情報は伏せていてしかるべきではあるが、そういった態度が不自然でないのは探偵役が個人として活動している場合だけだろう。

 全体として、ううん、という出来であった。