作者のブンガク志向の故か、登場人物の心理的側面に主眼を置いた作品がちょいちょい見受けられる。その書き方にもよるのだろうが、どうも私の好みではなかった。探偵の推理ではなく作者の説明で真相が語られると、ふうんそうですか、と思うだけである。ただ、あまりに突き抜けた作品はその奇天烈さを楽しめた。たとえば「白痴美」のような。
連作小説「風水渙」は別格。ミステリ的には、「(その五)祖母の珊瑚珠」の問題設定と真相とが魅力的。「(その六)霜を踏む」は、(伏字)という、まるでチェスタトンのような逆説が光る。連作全体ではストーリーの紆余曲折が、ただ読んで面白い、というやつだ。
もう一編挙げるなら、「桜桃八号」である。松本清張かよくできたトラベルミステリか、という前半は面白かった。真相は、また人間心理を語るのかよ、と思ってしまったけれども。