巻末解題によれば桜田十九郎の作品は、海外雄飛思想を背景にして明治期に勃興した冒険小説の流れを汲むのだという。最初の四編くらいは国策臭時局臭のノイズがなく、素直に楽しめた。たとえば「燃えろモロッコ」。どの程度定石をなぞっているのか知らないが、橘外男のような怪奇色のない、オールドスタイルの冒険小説はなるほどこういう味わいか、という新鮮さがある。
だが、後半になるとその新鮮さも薄れてくる。上記のノイズが増えてうっとうしくなる。似たような他愛ない作品ばかりで、通読するのが随分しんどかった。
気に入った作品を挙げておくと、初出時の角書き「国際冒険任侠小説」も納得の快傑が活躍する「髑髏笛」、伝奇小説の味が濃い「めくら蜘蛛」、終盤の展開に山田風太郎を思わせる「女面蛇身魔」、他とは毛色が違う点とずっこけるようなオチを買う「屍室の怪盗」、といったところ。
冒険小説作家として立つ前の作品「夏宵痴人夢」は、主人公の造形が情けなくも微笑ましい。覇気だ気魄だ日本男児だっ! ってな作風以前に、こんな文弱な主人公を書いていたのが意外であった。