●『平林初之輔 佐左木俊郎 ミステリー・レガシー』 山前譲編 光文社文庫 読了。
メインの長編、平林初之輔「悪魔の戯れ」は、雑誌連載後約九十年にして初の書籍化という大変な珍品である。読めるということ自体に、本書の大きな意義がある。
で、肝心なのは実際読んでみて面白いかどうかだけれども。登場人物達の心情を丁寧に、と言いたいところだが、だらだらと書き連ねる作風はどうにもじれったいまどろっこしい。私の好みではなかった。物語の起伏はそれなりにあるので、冗長な心理描写が無ければもう少し楽しめたのではと思うのだが。
佐左木俊郎で面白かったのは、いわゆる日常の謎の範疇に入りそうな「猟犬物語」であった。ただし、その日常は開墾者の過酷な日常である。狐罠にかかって爆殺(!)されたはずの愛犬が、実は生きていたという謎。もう一編挙げるなら「秘密の錯覚幻想」を選ぶ。ありがちな真相ではあるが、すっきりまとまっている。
ところでこれで、ミステリー文学資料館編のアンソロジーから派生した、後継の短編集もすべて読み終えた。本書の巻末に気になる記述がある。「ミステリー・レガシーのシリーズは、」云々とあるのだ。今後も山前譲編として続刊が出るということだろうか。期待したい。