●『ウィンストン・フラッグの幽霊』 A・R・ロング 論創社 読了。
富豪の遺産相続を巡る二人の女性間の係争が、ひとつの軸となっている。複数の遺言状、人の生死、結婚したタイミング、そういったいくつもの要素がからまりもつれあって、仮定と場合分けの迷宮となる。あまりにややこしくてちゃんと理解できたのか覚束ないが、このややこしさはロジックの遊びとして面白くもある。
ミステリだから当然、もうひとつの軸は殺人事件である。道具立てはちょっとした怪奇ミステリにもなりうるもので、幽霊が出没する田舎の屋敷、消え失せた死体、衆人環視の中で行われる不可能犯罪、ってな具合。登場人物の造形も含めて事件全体のトーンが陽性なので、道具立てにもかかわらず怪奇味は薄いけれども。
全体を覆うメインの趣向は外連味があって好ましい。不可能犯罪の真相は(伏字)的に無理じゃないかと思うネタだが、その辺の強引さもいっそ微笑ましい。展開の軽快さと二百ページしかない分量のおかげで、さっと読める。巻末解説にある、アメリカンB級ミステリの女王、という評言も頷ける。これは面白かった。
●書店に寄って本を買う。
『突然の奈落』 R・レヴィンソン&w・リンク 扶桑社ミステリー