累風庵閑日録

本と日常の徒然

『死体が歩いた』 R・ウィンザー ポケミス

●『死体が歩いた』 R・ウィンザー ポケミス 読了

 濃霧の中で、車が立木に衝突する事故が発生した。ドライバーの死体は現場から離れた池の中で発見されたが、死因は溺死ではなく衝突のショックによる即死と判明した。つまり、意識がもうろうとしたドライバーがふらふらと池までやってきて転落したという状況ではない。で、ここから不可能興味を盛り上げてゆく方向に行くかと思うとそうではない。それどころか、犯人の意外性もあまり重視されていないようだ。終盤に、皮肉でほろ苦い捻りが盛り込まれてはいるが、おまけのようなものである。

 半世紀前の作品なので、いわゆる黄金時代の作品よりもよほど現代に近い。現代ものらしい軽快さ、明るさがあって気持ちよく読めた。結局、読んでいる間ならば謎解きミステリの味わいを楽しめる作品、といったところである。ロイ・ウィンザーは他の既訳作を読んでもミステリとしての満足感がさほどではなかった。そもそもこの作者殿の方向性として、人間ドラマを描くことに力点が置かれているのかもしれない。その辺からも現代ミステリの臭いがする。

●書店にでかけて本を買う。
『止まった時計』 J・T・ロジャーズ 国書刊行会
「ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ・コレクション」の第一巻である。こうやって新シリーズが始まるのは歓迎なのだが、奇想天外の本棚はどうなった? ベル・エポック怪人叢書はどうなった?