●『水上幻一郎探偵小説選』 論創社 読了。
好みから外れる要素が頻出するので、どうやら私とは合わないようだ。その要素とは、特異体質、共犯の多用、都合の良すぎる偶然、読者の知らない手がかり、ってなもんで。アイデアをいくつも作品に盛り込むのはいいが、練り込みが足りないような気がしないでもない。全体に消化不良の気味で、どうしてそうなるの? ってな引っかかりがちょいちょいある。本書には、現在判明している作品を全て収録したそうで。読めることに意義がある本である。
収録作中で数少ない、気に入った作品を挙げておく。「青髭の密室」はちゃんと伏線があるし、(伏字)ネタもシンプルで効果的。「凶状仁義」は清水の次郎長が探偵役で、しかもちゃんと推理をしているのが面白い趣向である。巻末解説によれば、副題から推測して「シリーズ化を意図していたことをうかがわせるが、他にも書かれたかどうかは不詳(P.339)」だそうで。もしも続編が発見されたら読んでみたい。