●『シャーロック伯父さん』 H・ペンティコースト 論創社 読了。
主人公の少年ジョーイ・トリンブルと探偵役のジョージ・クラウダ―伯父さんとが、数々の事件に遭遇する。こういう人物配置とジョージ伯父さんの造形とが、ポーストのアブナー伯父を連想させる。作者はどの程度意識していたのだろうか。
ジョージ伯父さんは、法の正義を唯々信じるあまりにも真っ当な人物。威厳があって街の人々からは一目置かれている。狩と銃の名手で、街の周囲に広がる森のことは誰よりもよく知っている。そればかりか、森の様々な痕跡を「読んで」、そこで何が行われたかを知ることができる。
ジョーイ少年はジュブナイルによくあるスーパー少年探偵ではなく、犯人に追いかけられて脅えて泣き出すような、ごく普通の少年である。事件を解決するのはあくまでもジョージ伯父さんなのだ。
表題作「シャーロック伯父さん」と「ヘクターは本気」とは、どうかすると推理クイズになりそうな極めてシンプルなネタだが、複数のシリーズキャラクターが登場するおかげで物語として成立している。そしてこのシンプルさは私好み。
「どこからともなく」は、伏線がお見事。読者が事前に気付けるものではないけれども。
「カーブの殺人」は、あまりにも他愛ないネタによる一区切りの(伏字)がちょいと深い。
収録作中のベストは中編「我々が殺す番」で、秀逸なマンハントサスペンス。殺人の現場を目撃してしまったジョーイ。それと知った犯人グループは、ちらりと姿が見えただけで逃げられてしまった少年の素性を突き留めて口を塞ごうと、暗躍を始める。ジョーイの急報を受けて、ジョージ伯父と保安官とは犯人グループの正体を暴こうと活動を始める。果たしてどちらの狩が獲物を仕留めるのか。
野外を舞台にしたアクション小説の片鱗もあるし、扱われているのはヘヴィーなテーマだし、ちょっとこれは、作品の密度が並みではない。
最後に余談だが、巻末解説の文章は、これはもしかして推敲してないのか?