累風庵閑日録

本と日常の徒然

『螺旋階段』 M・R・ラインハート ハヤカワ文庫

●『螺旋階段』 M・R・ラインハート ハヤカワ文庫 読了。

 不審人物が屋敷をうかがい、殺人が起き、さらに頻々と不穏な出来事が続く。そればかりか、何人もの関係者が謎めいた行動をとる。深夜の外出だとか唐突な婚約解消だとか。そうやって物語の起伏は大きいのだが、残念なことに不思議なほど盛り上がらないのだこれが。

 原因はたぶん、提示された謎の性質にある。事情を聴かれた相手は答えるのだ。
「今はまだ話せないんだ」
「もしもお話したら、あなたは私を軽蔑しますわ」

 情報を持っている者がその情報を喋らないことでサスペンスを維持する手法は、私の好みから遠く遠く隔たっている。作者が喋らせないから事態が停滞しているだけで、喋ってしまえばそれで全部済む。そこにはロジックも伏線もあったもんじゃない。作中で扱われる謎の全てがこういうタイプではないけれども、この手の演出に出くわす度に気持ちが醒めてしまうのであった。

 真犯人に至る道筋は(伏字)。この点、ミステリを読んだ満足感は高くない。だが、巻末の訳者あとがきは面白かった。作者が意図したけれど読者に気付かれなかった風刺性の指摘は興味深い。階級制度の安定期における、女主人と家政婦との丁々発止の掛け合いに読みどころを見出す視点も、なるほどと思う。

●書店に寄って本を買う。
『モルグ館の客人』 M・エドワーズ ハヤカワ文庫

●直販でお願いしている論創海外ミステリの新刊がまだ届かないのだが。大丈夫だろうか。