●『黄金の13/現代篇』 E・クイーン編 ハヤカワ文庫 読了。
六百ページ近い分量なのでもともと読了までに四日かける予定だったのだが、間に一日休んだので五日もかかってしまった。気に入った作品は以下のようなところ。
ジョルジュ・シムノン「幸福なるかな、柔和なる者」は、連続殺人鬼の正体に気付いた主人公の恐怖を描く。多重構造のサスペンスが濃密である。すなわち、自分が気付いたと思いこんだ根拠は本当に正しいのか。相手はこちらが気付いたことに気付いているのか。連続殺人のパターンから逸脱して、次に狙われるのは自分なのではないか。相手は社会的信用がある人物なので、自分こそが犯人だと疑われないか。また、被害者の共通点を探るミッシング・リンクテーマの面白さもあるし、動機も秀逸。
ジョン・ディクスン・カー「パリから来た紳士」は再読だしネタも覚えていたのだが、それでも十分に楽しめた。メインのネタに関連するくすぐりが散りばめられている点、よく練られている。場末の酒場の暗い雰囲気もいい感じ。
シャーロット・アームストロング「敵」は、少年探偵団が活躍するがジュブナイルではない。題材はちょいとシビア。結末で、いかにも大人向けミステリらしい全体像がぱっと浮かんでくる切れ味が上出来。
個人的ベストはロイ・ヴィカーズ「二重像」であった。主人公ジュリアンと瓜二つの男が出没し、ある日とうとう殺人を犯すに至る。ところが警察は謎のそっくりさんなんて存在を受け入れず、ジュリアンが犯人だという前提で捜査を進める。真に狡猾で凶悪なのは謎のそっくりさんか、それともジュリアンか。ぎりぎりの二者択一が、不気味さを伴って上質のサスペンスとなっている。