●横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第七回をやる。
◆「モダン吸血鬼」 W・L・アルデン(昭和五年『モダン日本』)
大変な売れっ子作家で、雑誌の編集長で、鋭い批評家でもあるジョージ・マシウス。ある日彼の元へ、女流作家が訪ねてきた。彼女からは何度か作品を送ってきたことがあるが、彼は内容に満足できずその度に送り返していた。今まではそうやって郵送だけのやりとりだったが、実際に会った彼女は、なんと大層な美人であった。
ちょっと不気味な好編。結末のカタルシスの無さも悪くない。
◆「イヴの果物」 C・B・ブース(昭和七年『新青年増刊』)
農場の女主人ルーシーは、別の農場の季節労働者ベンと浮気をしていた。ルーシーは夢中だったが、ベンは一時の慰みとしか思っていなかった。ある日のこと、ルーシーの夫ジョーが喧嘩をして、相手から「殺してやる」と捨て台詞を吐かれた。これを聞きつけたベンは、今ジョーを殺せば喧嘩相手が犯人にされると考えた。そうすれば、農場の土地も財産も、ルーシーをたぶらかして思いのままになる。
なかなかの佳品。題名もちょいと気が利いているし、伏線もあるし、殺人実行までのサスペンスも結末に至る展開も上々である。
◆「ヘリオトロープ」 R・W・チャイルド(昭和八年『新青年増刊』)
終身懲役囚ハズドックが、特赦願いを出した。理由は娘のためだという。彼が命よりも大切に想っている娘が、今度結婚しようとしている。それを聞きつけた彼の妻、大変な悪女のクレオが、結婚にかこつけて娘を食い物にしようと企んでいる。その計画を阻止するために出獄を願ったのである。出獄を許可したらクレオの命が危ないとの知事の懸念に対して、ハズドックは誓った。クレオの体には決して指一本触れないと。はたして彼の計画とは。
二度も映画化されたそうで。なるほど映画にすればそれなりに受けそうな、人情噺風味を添えたちょっとしたサスペンス。展開がちと強引だが、それはもしかしてかなり端折ってあるからかもしれない。やりたいことは分かる。
●夕方から電車に乗って街に出る。横溝関連の忘年会である。