累風庵閑日録

本と日常の徒然

『五枚目のエース』 S・パーマー 原書房

●『五枚目のエース』 S・パーマー 原書房 読了。

 殺人犯の死刑が、近いうちに執行される予定である。だが、どうやら彼は冤罪で、他に真犯人がいるらしい。探偵役のヒルデガード・ウィザーズは、刑の執行前に真犯人を見つけるべく奔走する。とまあ、典型的なタイムリミット・サスペンスである。だが、テーマの深刻さほどにはサスペンスが迫ってこなかった。探偵の造形とテーマとが、釣り合っていないように思う。

 ウィザーズはエキセントリックで強引で、周囲を巻き込んで事態を引っ掻き回す。容疑者の住居に不法侵入して手掛かりを探し回り、そこに住人が帰宅してさあ大変!なんてな場面もある。どたばたと探偵活動をする彼女の様子が前面に出されてユーモアミステリになりそうなところ、深刻な題材と互いに打ち消し合っているのである。

 終盤になってふと頭に浮かんでしまった人物が犯人だったので、意外性は感じなかった。だがその設定は(伏字)で、私の好み通りではある。伏線も多くて、上記の引っ掛かった点を除けばさしたる不満はない。