累風庵閑日録

本と日常の徒然

今月の総括

●今月の総括。買った本:三冊読んだ本:十二冊

『シャダーズ』 A・アボット ROM叢書

●『シャダーズ』 A・アボット ROM叢書 読了。 痕跡を残さない殺人法を発見したとされる怪人ボールドウィン博士と、ニューヨーク市警本部長サッチャー・コルトとの闘争を描くスリラー。一見自然死としか思えない状況で次々と死んでゆく関係者達。死体が積…

『復讐鬼』 高木彬光 偕成社

●『復讐鬼』 高木彬光 偕成社 読了。 扉には「大デューマ原作」とある。ダルタニヤン物語の第二部を、高木彬光が子供向けに分かりやすくリライトしたものである。大きめの活字で約三百ページの本なのだが、完訳は文庫版で三巻になるというから、かなり省略さ…

『黄金の13/現代篇』 E・クイーン編 ハヤカワ文庫

●『黄金の13/現代篇』 E・クイーン編 ハヤカワ文庫 読了。 六百ページ近い分量なのでもともと読了までに四日かける予定だったのだが、間に一日休んだので五日もかかってしまった。気に入った作品は以下のようなところ。 ジョルジュ・シムノン「幸福なる…

読書を休む

●フィクションに疲れた。頭が物語を受け付けなくなった。といっても、なんら深刻な事態ではない。年に一度か二度は陥る状態で、いうなれば筋トレをして筋肉痛になったようなものである。対処法も分かっている。一日くらい読書を休めば回復するのだ。という訳…

『英雄と悪党との狭間で』 A・カーター 論創社

●『英雄と悪党との狭間で』 A・カーター 論創社 読了。 共同体の誰とも馴染めないでいる主人公が、ひょんなことから(便利な言葉だ)蛮族の青年と行動を共にすることになる。どうやらこの作品、物語の起伏や謎やスリルや、そういったエンターテイメント小説…

『薔薇の輪』 C・ブランド 創元推理文庫

●『薔薇の輪』 C・ブランド 創元推理文庫 読了。 辺境の農家で一人の男が心臓発作で死んでおり、家の前の車の中では一人が銃殺されていた。事件の状況は微妙に、だが決定的に矛盾している。その矛盾を説明する仮説が、新たに判明する情報に順次上書きされつ…

『アガサ・クリスティーの大英帝国』 東秀紀 筑摩選書

●『アガサ・クリスティーの大英帝国』 東秀紀 筑摩選書 読了。 「名作ミステリと「観光」の時代」という副題が付いている。クリスティー作品の多くを観光ミステリと捉え、そこで描かれた観光旅行のあり方を通して英国社会の変遷をたどる内容である。対象作品…

『宙に浮く首』 太下宇陀児 春陽文庫

●『宙に浮く首』 太下宇陀児 春陽文庫 読了。 表題作「宙に浮く首」と「たそがれの怪人」とがそれぞれ約七十ページ、「画家の娘」が二十ページちょいという三編が収録されている。表題作は奇妙な作品。序盤で起きた殺人の謎が放置されたまま、物語の焦点は失…

『ベヴァリー・クラブ』 P・アントニー 原書房

●『ベヴァリー・クラブ』 P・アントニー 原書房 読了。 事件もその後の展開も、割とありがちなものであった。発見された直後に消え失せ、再び現れた死体。多すぎる手掛かりと多すぎる容疑者。誰もが動機を持ち、誰もが機会を持っていた。 だが、けっして凡…

『モーツァルトの子守歌』 鮎川哲也 立風書房

●『モーツァルトの子守歌』 鮎川哲也 立風書房 読了。 割と小粒な作品が多かったようだ。そうはならんだろ、と思う作品もあった。そんななかで、「人形の館」はシンプルですっきりした真相が好ましい佳品。個人的ベストは「ジャスミンの匂う部屋」で、現場の…

『毒のたわむれ』 J・D・カー ポケミス

●『毒のたわむれ』 J・D・カー ポケミス 読了。 舞台となる屋敷とその住人達はどうも陰鬱で、事件はやけに陰惨で。それなのに、探偵役のパット・ロシターがあまりに奇矯な造形なのが少々浮いているようだ。巻末の訳者あとがきでは、そのモデルをチェスタト…

『シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック』 M・ディブディン 河出文庫

●『シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック』 M・ディブディン 河出文庫 読了。 意欲的な作品、と申し上げておく。少々悪趣味でもある。序章で「多くの人がひどくショックを受ける」云々とあり、「はじめに」の章での思わせぶりな書き方があり、まあそう…

『小鬼の市』 H・マクロイ 創元推理文庫

●『小鬼の市』 H・マクロイ 創元推理文庫 読了。 第二次大戦中のカリブ海を舞台にした、サスペンス色の強い作品。時代設定が設定だけに、事件にはなにやらスパイだの敵組織だのの臭いが漂う。真相を導くための伏線がいろいろ仕込まれている点は嬉しいが、犯…

今月の総括

●今月の総括。買った本:九冊読んだ本:十二冊 読書が快調である。

『ユーモアミステリ傑作選』 風見潤編 講談社文庫

●『ユーモアミステリ傑作選』 風見潤編 講談社文庫 読了。 この本を買った目的は、ジョン・スラデックのサッカレイ・フィンものが収録されていることにある。だが、今のタイミングで手に取った目的は他にある。収録されているフランク・グルーバーの六十ペー…

第九回横溝正史読書会 本陣殺人事件&赤屋敷殺人事件

●都内某所で、横溝正史読書会が開催された。課題図書は「本陣殺人事件」と、A・A・ミルン「赤屋敷殺人事件」である。ミルンは、特に横溝正史訳の論創社版に限定している。それぞれ単独で語るもよし、両者の関係を語るもよし、という会である。参加者は十名…

『ソングライターの秘密』 F・グルーバー 論創社

●『ソングライターの秘密』 F・グルーバー 論創社 読了。 物語に流されながら、ジョニーとサムのいつもの活躍を楽しめばよろしい。すいすいと読み終えたら何も残らず、さっと忘れてしまえる。シリーズのいつもの味わいである。ともかくもこれでシリーズ全訳…

『赤屋敷殺人事件』 A・A・ミルン 論創社

●『赤屋敷殺人事件』 A・A・ミルン 論創社 読了。 二年半ぶり三度目。今度の週末に開催される読書会の課題図書なので、メモを取りながら読んだ。とはいってもあまりの読みやすさにすいすい進み、メモは大した量にはならなかったけれども。 今回は主に、横…

「本陣殺人事件」

●角川文庫の横溝正史『本陣殺人事件』から、表題作を読んだ。気付いた点を随時メモしながらゆっくりと読み進める。なぜ今本陣かというと、今度の週末に横溝正史読書会が開催されるからである。課題図書は「本陣殺人事件」と、この作品を書くにあたって正史が…

『すべては<17>に始まった』 J・J・ファージョン 論創社

●『すべては<17>に始まった』 J・J・ファージョン 論創社 読了。 さらりと読める軽スリラー。この先どうなるかの興味よりも、今何が起きているかの興味で読者を引っ張っていくタイプ。ただ、読者にページをめくらせる推進力として最も強く機能している…

『シャーロック・ホームズ 世紀末とその生涯』 H・R・F・キーティング 東京図書

●『シャーロック・ホームズ 世紀末とその生涯』 H・R・F・キーティング 東京図書 読了。 十九世紀末、繁栄の頂点にあった英国は静かに坂を転がり落ち始める。安定と秩序と品位のヴィクトリア朝から、刺激と喧騒と退廃のエドワード朝へ、世の中は移ろって…

『恐怖推理小説集』 鮎川哲也編 双葉新書

●『恐怖推理小説集』 鮎川哲也編 双葉新書 読了。 粒揃いの好アンソロジーであった。いくつか簡単なコメントを付けると、現実と非現実との境界がゆらぐ三橋一夫「蛇恋」と半村良「夢中犯」。読者に嫌な想像を強いる日蔭丈吉「東天紅」と野呂邦暢「剃刀」。ぼ…

『バーネット探偵社』 M・ルブラン 偕成社

●『バーネット探偵社』 M・ルブラン 偕成社 読了。 調査無料を謳うバーネット探偵社。所長ジム・バーネットの正体はもちろんアルセーヌ・ルパンである。シリーズキャラクターのベシュ刑事が難事件に遭遇すると、バーネットは彼を手助けしてたちどころに解決…

『償いの報酬』 L・ブロック 二見文庫

●『償いの報酬』 L・ブロック 二見文庫 読了。 マット・スカダーシリーズである。殺された男は、アルコール依存症克服プログラムの一環として、過去に迷惑をかけた人物をリストアップして贖罪の巡回を重ねていた。リストの中に、過去に受けた仕打ちを忘れず…

『幸せな秋の野原』 E・ボウエン ミネルヴァ書房

●『幸せな秋の野原』 E・ボウエン ミネルヴァ書房 読了 「ボウエン・ミステリー短編集」の第二巻である。とはいってもミステリ色は薄い。いやはやどうも、大変に疲れる本であった。内容をしっかり受け止めるためには、一行一行噛みしめるように読んでいかな…

『真珠の首飾り』 R・V・ヒューリック ポケミス

●『真珠の首飾り』 R・V・ヒューリック ポケミス 読了。 第三公主、すなわち皇帝の三女に命じられて極秘任務に従事する狄判事。第三公主が父皇帝から賜って大事にしていた真珠の首飾りが盗まれたというのだ。身分を隠して潜入捜査を行い、時に襲い来る暴漢…

『螺旋階段』 M・R・ラインハート ハヤカワ文庫

●『螺旋階段』 M・R・ラインハート ハヤカワ文庫 読了。 不審人物が屋敷をうかがい、殺人が起き、さらに頻々と不穏な出来事が続く。そればかりか、何人もの関係者が謎めいた行動をとる。深夜の外出だとか唐突な婚約解消だとか。そうやって物語の起伏は大き…

『踊るドルイド』 G・ミッチェル 原書房

●『踊るドルイド』 G・ミッチェル 原書房 読了。 まず、登場人物が実に魅力的。探偵役で奇矯なブラッドリー夫人、秘書のローラ、運転手のジョージ。最初に事件に巻き込まれた青年オハラと、その友人ガスコイン。中盤以降に事件調査の仲間に加わる、ブラッド…

今月の総括

●この土日に、横溝正史に関係なくもないオフ会で山梨に行ってきた。先々週は北海道に行ったし、今月は尋常ではない濃密で充実した一カ月であった。 ●今読んでいる短編集が、つまらなくはないけれども疲れる。中断して明日から別の本を手に取るかもしれん。実…