累風庵閑日録

本と日常の徒然

『迷路荘の惨劇』 横溝正史 角川文庫

●『迷路荘の惨劇』 横溝正史 角川文庫 読了。 先週から続けてきた、迷路荘改稿読み比べの一環である。ようやく長編までたどり着いた。中編版から大幅にページ数が増えることで、描写が丁寧になり展開が細やかになっている。中編版の不満点が解消され、ミステ…

『迷路荘の怪人』 横溝正史 東京文藝社

●『迷路荘の怪人』 横溝正史 東京文藝社 読了。 中編が二編収録されている。 「迷路荘の怪人」 短編版の三年後に、書き下ろしとして単行本に収録された。改稿によって、まとまった分量の警察による尋問シーンが追加されている。そのおかげで、関係者の証言を…

『聖者対警視庁』 L・チャーテリス 日本出版共同

●『聖者対警視庁』 L・チャーテリス 日本出版共同 読了。 聖者こと義賊サイモン・テンプラーものの中編が二編収録されている。「奇蹟のお茶事件」のオープニングはこんな具合。新発売の胃弱の特効薬「奇蹟のお茶」。ひょんなことから聖者の手元に転がり込ん…

『ゴールデン・サマー』 D・ネイサン 東京創元社

●『ゴールデン・サマー』 D・ネイサン 東京創元社 読了。 主人公ダニー少年がちょっとした機知のきらめきによって小銭を稼ぐ、短いエピソードが連なった構成になっている。口先の説得力で事態をコントロールする様は、さながらフランク・グルーバーのジョニ…

『跡形なく沈む』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

●『跡形なく沈む』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫 読了。 犯人探しミステリとしては、残念ながら十分な満足は得られなかった。探偵役が犯人に疑念を抱くきっかけがあまりに些細、あまりに微妙だってえのはむしろ私の好物で、どんとこいである。だがそれ…

『新青年傑作選 第四巻 翻訳編』 立風書房

●『新青年傑作選 第四巻 翻訳編』 立風書房 読了。 なにしろ傑作選なのだから、収録作は他のアンソロジーやなんかに採られているものが少なくない。既読が多かったけれども、それはそれ。気に入ったのは以下のようなところ。 カミ「ルウフォック・ホルメスの…

『奇妙な捕虜』 M・ホーム 論創社

●『奇妙な捕虜』 M・ホーム 論創社 読了。 最初の舞台は第二次大戦末期の、イギリス軍の捕虜収容所である。題名にある奇妙な捕虜は、どこといって特徴が無いにもかかわらず不思議な存在感を発揮しているという。どうやら少しばかり精神を病んでいるらしい。…

奇怪な銃弾

●翻訳ミステリアンソロジーを、半分まで読んで中断。感想は通読してから。 ●注文していた本が届いた。『奇怪な銃弾』 佐川春風 ヒラヤマ探偵文庫JAPAN

『名月一夜狂言』 横溝正史 創元推理文庫

●『名月一夜狂言』 横溝正史 創元推理文庫 読了。 人形佐七シリーズの中から、本格ミステリの要素に注目して作品を選んだ傑作集。必要があってメモを取りながら読んだ。そうしないと、読んだ傍から内容を忘れてしまう。全体を覚えておくためのメモなのだから…

『ハイド氏の奇妙な犯罪』 J=P・ノーグレット 創元推理文庫

●『ハイド氏の奇妙な犯罪』 J=P・ノーグレット 創元推理文庫 読了。 「ジキルとハイド」と、ホームズもの「四つの署名」とを融合させたパスティシュ。実はハイドは「四つの署名」事件にも関わっていた、という趣向をハイドの視点で語る。どちらかの素材に…

『黄色いアイリス』 A・クリスティー ハヤカワ文庫

●『黄色いアイリス』 A・クリスティー ハヤカワ文庫 読了。 クリスティー文庫創刊前に買って長らく積ん読だったものを、ようやく読んだ。なかなかに楽しい短編集であった。ほとんどの収録作に、ちょっとした伏線、ロジック、意外性が盛り込まれており、実に…

『ヴォスパー号の遭難』 F・W・クロフツ ハヤカワ文庫

●『ヴォスパー号の遭難』 F・W・クロフツ ハヤカワ文庫 読了。 原因不明の爆発で沈没したヴォスパー号。どうやら保険金搾取の犯罪らしい。フレンチ警部が丹念に、緻密に、堅実に一歩一歩捜査を進めてゆく。だが、証拠も動機も具体的な犯行手順も、まるで分…

『レザー・デュークの秘密』 F・グルーバー 論創社

●『レザー・デュークの秘密』 F・グルーバー 論創社 読了。 ミステリの形式を整えるためについでに付け加えたような真相解明シーンを含め、いつものジョニー&サムシリーズの味わいである。グルーバーの筆先に流されながら、彼らの軽快かつしたたかな活躍を…

『幽霊通信』 都筑道夫 本の雑誌社

●『幽霊通信』 都筑道夫 本の雑誌社 読了。 少年小説コレクションの第一巻である。今年からこのシリーズを読んでゆく。「ゆうれい通信」は、十二編で構成される短編集。それぞれが十ページにも満たない小品だし子供向けだしで驚くほどの読み応えはないが、面…

『贖いの血』 M・ヘッド 論創社

●『贖いの血』 M・ヘッド 論創社 読了。 登場人物の個性の魅力で読み進めた。嫌な奴がきちんと憎たらしく描かれていると、ページが捗る。結末の、犯人の指摘に至る道筋はそれまでの多くの伏線を拾っていて満足。死体発見時の描写がちょいと鮮烈で、全体が穏…

『ブランディングズ城の救世主』 P・G・ウッドハウス 論創社

●『ブランディングズ城の救世主』 P・G・ウッドハウス 論創社 読了。 今まで読んできたウッドハウスと同じ、あの味わいあの面白さである。複雑に絡まりあった大量の要素をきちんと収束させる構成力にほとほと感心する。言いたいことは以上二点に尽きる。

『劇場の迷子』 戸板康二 創元推理文庫

●一夜明ければ新玉の春でございます。本年もよろしくお願い申し上げます。 ●『劇場の迷子』 戸板康二 創元推理文庫 読了。 一編一編慈しむように、六日間かけてゆっくり読んでいった。人の心の機微を描いて滋味横溢。全く素晴らしい。べた褒めしておく。幕切…

今年の総括

●注文していた本が届いた。『花太郎行状記』 角田喜久雄 捕物出版 ●今年の総括をやる ======================== ◆今年一年間で買った本:百三十一冊読んだ本:百二十九冊 積ん読が二冊増えたわけだ。 ◆読んだ本の中から特に面白かっ…

『晩酌の誕生』 飯野亮一 ちくま学芸文庫

●『晩酌の誕生』 飯野亮一 ちくま学芸文庫 読了。 元々酒は、神人交歓の場で大勢が集まって飲むものであった。時代が下るにしたがって、次第に独りで飲む習慣が広がってゆく。山上憶良「貧窮問答歌」にある貧しい庶民の独酌や、大伴旅人の独り飲む酒の歌から語…

『日本の妖怪百科』 岩井宏實 河出書房新社

●『日本の妖怪百科』 岩井宏實 河出書房新社 読了。 山の妖怪、水の妖怪、という具合に全体が四章で構成されている。平易な文章だし総ルビだし、対象読者の年齢はどうやら低めに設定されているようだ。口碑伝説や民話などを主な材料にして、様々な妖怪が解説…

『都筑道夫創訳ミステリ集成』 作品社

●『都筑道夫創訳ミステリ集成』 作品社 読了 収録の三編を、十月から一編ずつ読んでいった。 「銀のたばこケースの謎」ジョン・P・マーカンド 日本人スパイ、モトさんが活躍するシリーズの一作である。原典は角川文庫から『天皇の密偵』という題で刊行され…

『毒婦の娘』 W・コリンズ 臨川書店

●『毒婦の娘』 W・コリンズ 臨川書店 読了。 題名では娘に焦点が当たっているが、実際の主人公は作中で毒婦と称される母親フォンテーヌ夫人の方である。その造形は、娘の幸せのためなら手段を選ばずいかなる犠牲も厭わない女丈夫として描かれる。狡猾な計略…

『白波五人帖』 山田風太郎 春陽文庫

●『白波五人帖』 山田風太郎 春陽文庫 読了。 白波五人男それぞれの、凄絶な半生を描く作品集。精神が若く気力も充実していた三十年前に出会っておくべき本であった。面白いことは抜群に面白いのだが、今となってはそのあまりの濃さに少々胸焼けがする。もち…

『エイプリル・ロビン殺人事件』 C・ライス ポケミス

●『エイプリル・ロビン殺人事件』 C・ライス ポケミス 読了。 明るいトーンのロス・マクドナルドとでもいった作品。人間関係が複雑にからみ合い、過去と現在とが交錯し、やがて人々の隠されていた正体が見えてくる。とにかく展開が速く起伏に富んで、読んで…

『パノラマ島綺譚』 江戸川乱歩 光文社文庫

●『パノラマ島綺譚』 江戸川乱歩 光文社文庫 読了。 全集の第二巻である。乱歩作品は一通り読んだつもりだったが、どうやら「闇に蠢く」と「空気男」とは読んだことがないような気がしてきたので買ってみた。十月から細切れに読んでいて、今月になってようや…

『アゼイ・メイヨと三つの事件』 P・A・テイラー 論創社

●『アゼイ・メイヨと三つの事件』 P・A・テイラー 論創社 読了。 かなりライトな味わいである。伏線だのロジックだのの方面にはあまり注力されていないような。たとえば「(伏字)」では、探偵殿は最後まで黙っていたある条件によって犯人が判ったとおっし…

『隠密飛竜剣』 高木彬光 桃源社

●『隠密飛竜剣』 高木彬光 桃源社 読了。 柳生十兵衛が隠密となって江戸から西国へ向かって旅する道中で、様々な事件に遭遇する連作短編集。面白かったのは、ストーリーが単純でなかったり闘いの場面が割ときちんと書かれていたりの点で、次のようなところ。…

『もしも誰かを殺すなら』 P・レイン 論創社

●『もしも誰かを殺すなら』 P・レイン 論創社 読了。 基本設定はびっくりするくらい型通りで、記述は平易でまったくもって読みやすい。殺しには外連味があって、展開は派手でスピーディー。巻末の訳者あとがきによると、作者パトリック・レインは、あのB級…

『エラリー・クイーン傑作集』 各務三郎編 番町書房イフ・ノベルズ

●『エラリー・クイーン傑作集』 各務三郎編 番町書房イフ・ノベルズ 読了。 裏表紙によれば、「動機」と「結婚記念日」とは単行本初収録だという。本書刊行当時は、それなりの珍品だったのであろう。だが今は、どちらも創元推理文庫『間違いの悲劇』に収録さ…

『新・幻想と怪奇』 仁賀克維編・訳 ポケミス

●『新・幻想と怪奇』 仁賀克維編・訳 ポケミス 読了。 ちょっとした好アンソロジーであった。打率は六割五分といったところ。ローズマリー・ティンパリー「マーサの夕食」は、このネタならどう書いても面白い。ゼナ・ヘンダースン「闇が遊びにやってきた」は…