累風庵閑日録

本と日常の徒然

『サインはヒバリ』 P・ヴェリー 論創社

●『サインはヒバリ』 P・ヴェリー 論創社 読了。 誘拐事件を主題とするジュブナイル。日本で独自に付けた副題が「パリの少年探偵団」である。ケストナー「エーミールと探偵たち」のような陽性の探偵活動劇を想像していたら、意外にも叙情的な物語であった。…

『九番目の招待客』 O・デイヴィス 国書刊行会

●『九番目の招待客』 O・デイヴィス 国書刊行会 読了。 クリスティー「そして誰もいなくなった」の先駆作であるという情報を事前に知ってしまうと、この先どうなるかの興味がやや減殺される。なるほどこの作品では閉鎖空間に集められた人々が順番に死んでい…

『幻想と怪奇2』 早川書房編集部編 ポケミス

●『幻想と怪奇2』 早川書房編集部編 ポケミス 読了。 たぶん未読だろうと思う作品のなかでは、ジョン・コリア「ビールジーなんているもんか」がベスト。ありがちなオチではあるが好みに合っている。再読ではW・W・ジェイコブズ「猿の手」が、やっぱり名作…

菊水江戸日記

●書店に出かけて本を買う。『菊水江戸日記』 横溝正史 春陽文庫『くろて団は名探偵』 H・J・プレス 岩波少年文庫 ●今月の総括。買った本:十三冊読んだ本:十一冊

『別冊・幻影城 NO.7 高木彬光』

●『別冊・幻影城 NO.7 高木彬光』 読了。 「誘拐」 犯人の計画に感心した。これはいい。読んでいる途中は、(伏字)要素がちと興醒めであった。だが、その部分にもきちんと神経が行き届いていることが分かって、なおのこと関心する。私好みの、警察の地…

『七之助捕物帖 第三巻』 納言恭平 捕物出版

●『七之助捕物帖 第三巻』 納言恭平 捕物出版 読了。 長くても二十ページ少々の作品ばかりなので、伏線とロジックとを練り込むには短すぎる。かといって捻りと切れ味とで勝負する作風でもなし。ミステリ的な小ネタがちょいちょい盛り込まれてはいるのだが、…

『ドイル全集8』 C・ドイル 改造社

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの最終回、第四十回として、第八巻で読み残していた「爐邊物語」後半の六編百ページほどを読んだ。そのうち四編は再読だったし、初読の「B二十四號」もストレートすぎる展開でさして感銘を受けず。せっかくの…

『黒猫になった教授』 A・B・コックス 論創社

●『黒猫になった教授』 A・B・コックス 論創社 読了。 こりゃあ面白い。明るく軽快な展開に、この先どうなるかの興味とともに流されていけばいい作品である。なにより題名になっている黒猫がいい感じ。天才的な生物学者リッジリー博士が自らの理論に基づい…

『新青年傑作選 第三巻 恐怖・ユーモア小説編』 中島河太郎編 立風書房

●『新青年傑作選 第三巻 恐怖・ユーモア小説編』 中島河太郎編 立風書房 読了。 暗く、ねちこく、湿っぽい作品はどうも好みではない。コメントを付けたい作品は多くはない。江戸川乱歩「陰獣」はもう何度も読んでいるが、やはりつくづく感心する。昭和三年に…

『殺す者と殺される者』 H・マクロイ 創元推理文庫

●『殺す者と殺される者』 H・マクロイ 創元推理文庫 読了。 中盤過ぎまでは、言っちゃあ悪いがありきたりのサスペンスである。急な予定変更で早く帰宅した夫を、不審者と間違えて射殺した妻。だが、彼女は本当に屋敷に侵入してきた人物を夫だと気付かなかっ…

『善意の殺人』 R・ハル 原書房

●『善意の殺人』 R・ハル 原書房 読了。 犯人は誰か、という興味にあまり重点を置かず、(伏字)という点が意外性のキモである特異なミステリ。この特異さは、なるほど面白いことを考えたものですねえとは思う。思うが、結局は読み終えても平熱であった。な…

『阿呆旅行』 江國滋 中公文庫

●『阿呆旅行』 江國滋 中公文庫 読了。 五十年ほど前に雑誌連載された紀行文集である。なんとも滋味深い老成した文章で、これを三十六歳で書いたのかと驚く。でも実は、なんら驚くことではないのかもしれない。人の外見を考えても、今と昔とでは年齢に応じた…

特別開催横溝正史読書会『夜光虫』

●新大阪駅にほど近い貸会議室で、横溝正史ファンイベント『横溝正史発表会&読書会』が開催された。参加者及びスタッフ総勢四十二名という盛況であった。その第二部が「『夜光虫』読書会」である。いつもは参加者のみで小ぢんまりと運営している読書会なのだ…

『ファラデー家の殺人』 M・アリンガム 論創社

●『ファラデー家の殺人』 M・アリンガム 論創社 読了。 犯人の設定が上出来で、もうこれだけで満足。動機が(伏字)というのは、読者が真相に近づくのにかなり高いハードルだと思わないでもないが、まあ些細なことである。もうひとつ、ファラデー家の面々が…

『完全犯罪大百科(上)』 E・クイーン編 創元推理文庫

●『完全犯罪大百科(上)』 E・クイーン編 創元推理文庫 読了。 収録されているのは十九世紀末から前世紀半ばまでの作品だし、扱われている犯罪は殺人が少なく泥棒や詐欺が多いしで、全体的に素朴で長閑な味わいである。たまにはこういうのもいい。 特に面…

『死への祈り』 L・ブロック 二見文庫

●『死への祈り』 L・ブロック 二見文庫 読了。 表面的には解決したことになっている事件。その裏に潜む殺人鬼に、マット・スカダーが挑む。事件そのものは殺伐としてハードなものだが、展開には本格ミステリの匂いがちょいちょい漂う。犯人の計画もそれっぽ…

今月の総括

●定期でお願いしている本が届いた。『ファラデー家の殺人』 M・アリンガム 論創社『黒猫になった教授』 A・B・コックス 論創社 ●今月の総括。買った本:十二冊読んだ本:十冊 古本を二冊買ったために、二冊超過してしまった。

龍潭譚

●立風書房の国内ミステリアンソロジーを半分まで読んで中断。明日から別の本を読み始める。 ●書店に寄って本を買う。『龍潭譚/白鬼女物語』 泉鏡花 平凡社ライブラリー ●同人誌『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集3』が完成した。九月十日の大阪文…

菊水兵談

●昨日、久しぶりに古本を買った。『隠密飛竜剣』 高木彬光 桃源社ポピュラーブックス『ホテル探偵ストライカー』 C・ウールリッチ 集英社文庫 ●注文していた本が届いた。『瓢庵先生捕物帖 第三巻 赤い匕首』 水谷準 捕物出版 ●書店にでかけて本を買う。『菊…

『夢の10セント銀貨』 J・フィニイ ハヤカワ文庫FT

●『夢の10セント銀貨』 J・フィニイ ハヤカワ文庫FT 読了。 主人公はうらぶれてぱっとしない青年。代り映えのしない灰色の日常にほとほとうんざりしている。そんな彼が、偶然手に入れた奇妙な銀貨の呪力を受けて、ちょっとだけ違う並行世界に入り込んでし…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第三十九回「伯父ベルナツク」

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十九回として、第八巻から中編「伯父ベルナツク」を読んだ。フランス革命を逃れて英国に渡った亡命貴族の跡取り息子、ルイ・ド・ラヴァルが主人公。本来彼が相続すべき城と所領とを、革命の暴動に乗じて…

『七面鳥殺人事件』 C・ライス ポケミス

●『七面鳥殺人事件』 C・ライス ポケミス 読了。 残念ながらちょいと低調であった。かなり早い段階で事件の核心が思い浮かんでしまったので、意外さは感じなかった。ロジックや外連味といった要素も豊富とは言い難い。事件は銀行強盗団や脱獄囚グループがか…

『シャーロック・ホームズの大学』 長沼弘毅 実業之日本社

●『シャーロック・ホームズの大学』 長沼弘毅 実業之日本社 読了。 シリーズ中の酒が登場するシーンを列挙した部分がちょっと面白かった。そこから読み取れるのは以下のような情報である。ウイスキーと水という組み合わせはほとんど登場せず、ウイスキーに合…

『こびとの呪』 東京創元社

●火曜日に、ポケミスの『幻想と怪奇2』を手に取ってぱらぱらとページをめくり、驚愕した(誇張表現)。なんと印刷エラーがあって、エドワード・ルカス・ホワイト「ルクンド」とアンブローズ・ビアース「マクスンの人形」とに、それぞれ白紙のページがあるで…

『ブロンズの使者』 鮎川哲也 徳間文庫

●『ブロンズの使者』 鮎川哲也 徳間文庫 読了。 三番館シリーズの第三巻である。気に入ったのは以下のような作品。手掛かりがシンプルでありながら決定的な表題作「ブロンズの使者」、終盤でとある要素の意味ががらりと変わる「百足」、犯人の狡猾な計画が秀…

『こちら殺人課!』 ホック 講談社文庫

●『こちら殺人課!』 ホック 講談社文庫 読了。 エドワード・D・ホックのシリーズキャラクター、レオポルド警部もののアンソロジーである。気に入った作品は以下のようなところ。この記述が伏線だったのか!という意外性の「港の死」、しがないギャンブラー…

『第三閲覧室』 紀田順一郎 創元推理文庫

●『第三閲覧室』 紀田順一郎 創元推理文庫 読了。 登場人物の多くが癖のある中高年のおっさんなので、読んでいて疲れる。扱われている題材が組織内政治だとか家族の軋轢だとか行政手続きの煩雑さだとか、身に覚えのあることで読んでいてしんどい。 そうはい…

「不知火奉行」

●九月の横溝イベントに向けて、副読本として出版芸術社の『不知火奉行』の表題作を読んだ。テンポの速い展開に軽妙な会話、主人公格のふたりのやり取りも面白く、なかなかの佳品であった。内容の繰り返しになるが、七年半前に読んだ時の日記を再掲しておく。…

『名探偵ホームズとワトソン少年』 A・C・ドイル 論創社

●『名探偵ホームズとワトソン少年』 A・C・ドイル 論創社 読了。 武田武彦が子供向けにリライトしたもので、題名の通りワトソンが少年になっている。「ヴァスカビル家の犬」をリライトした「まぼろしの犬」を読むと、やはりこの作品は情報の出し方も話の盛…

『ヴードゥーの悪魔』 J・D・カー 原書房

●『ヴードゥーの悪魔』 J・D・カー 原書房 読了。 やはりカーといえば不可能興味である。とはいっても第一の事件の真相はあまりに強引。個人的には第二の事件の方が、状況的にも映像としても魅力的であった。ツッコミどころがないわけではない。犯行手段を…