累風庵閑日録

本と日常の徒然

2020-01-01から1年間の記事一覧

『笑う仏』 V・スターレット 論創社

●『笑う仏』 V・スターレット 論創社 読了。 西洋人の眼を通して描かれる、夢幻都市北京と掴みどころのない中国人、そして跳梁する”笑う仏”。魅力的な舞台である。犯人設定と犯行の状況も意欲的で際どくて、嬉しい。その点に関して書きたいことはあるけれど…

『竹村直伸探偵小説選II』 論創社

●『竹村直伸探偵小説選II』 論創社 読了。 前半の大人向け作品では「香典作戦」がベスト。先が読めない奇妙な展開でページが進む。ちょいと尖がった結末も悪くない。ちと残念なのは、終盤の展開があまりにも唐突なので。切れ味と解せなくもないが、そこに…

改稿前後の比較

●今度の週末に、オンライン横溝読書会が開催される。課題図書は「三つ首塔」である。ところでこの作品の現在流布している角川文庫版は、初出誌および初期の単行本から改稿されている。読書会がいいきっかけなので、改稿前後の比較をしておこうと思う。 とい…

『シーザーの埋葬』 R・スタウト 光文社文庫

●『シーザーの埋葬』 R・スタウト 光文社文庫 読了。 このシリーズに期待するのは、軽快な会話、魅力的なキャラクター、スピーディーな展開、である。本書はその期待に十分応えてくれて、満足。出先で出くわした事件なので、ウルフとしては珍しく活動的であ…

『平林初之輔 佐左木俊郎 ミステリー・レガシー』 山前譲編 光文社文庫

●『平林初之輔 佐左木俊郎 ミステリー・レガシー』 山前譲編 光文社文庫 読了。 メインの長編、平林初之輔「悪魔の戯れ」は、雑誌連載後約九十年にして初の書籍化という大変な珍品である。読めるということ自体に、本書の大きな意義がある。 で、肝心なのは…

『ヘル・ホローの惨劇』 P・A・テイラー 論創社

●『ヘル・ホローの惨劇』 P・A・テイラー 論創社 読了。 次々とエピソードが積み重ねられて中だるみしない展開はお見事。章の終わりにちょいちょい引きが仕掛けられているのも、ページをめくらせる力になっている。終盤で明かされる、とある小道具の使い方…

『ジーヴスと朝のよろこび』 P・G・ウッドハウス 国書刊行会

●『ジーヴスと朝のよろこび』 P・G・ウッドハウス 国書刊行会 読了。 相変わらず、精緻な構成と散りばめられたくすぐりとが好調である。伏線とその回収とが複数同時並行で、あるいは前後がオーバーラップして、何度も繰り返される。その構成力に感心する。…

『藤井礼子探偵小説選』 論創社

●『藤井礼子探偵小説選』 論創社 読了。 上々の短編集であった。日常的にどこにでも転がっているような、卑しさ愚かさ醜さ浅ましさを、堅実な筆致で綴る。確かな人物造形、サスペンスを維持する筆運びの上手さ、そして時折仕掛けられている捻り、といった美…

『悪魔に食われろ青尾蠅』 J・F・バーディン 翔泳社

●『悪魔に食われろ青尾蠅』 J・F・バーディン 翔泳社 読了。 なんともしんどい。主人公の抽象的な幻覚や募りゆく不安感が、ひたすら、執拗に、綴られる。ねちこく起伏に乏しい展開は、私の好みからは遠く隔たっている。こりゃあだめだと判断して、よほど途…

「三つ首塔」の初出誌

●某所に依頼していた、「三つ首塔」の初出誌コピーが届いた。なんと早いことか。いつもなら六週間くらいかかっても不思議ではないのに、今回は最初のアクションからわずか二週間でブツを手にすることができた。素晴らしい。まったく素晴らしい。これから追々…

『三つ首塔』 横溝正史 角川文庫

●『三つ首塔』 横溝正史 角川文庫 読了 今月末に開催される、横溝読書会@オンラインの課題図書である。感想は当日のレポートと一体化させて書く予定。 会まであと三週間もあるのにずいぶん気が早いようだが、そうでもない。読みながら取ったメモを整理した…

『横溝正史の世界』 徳間書店

●『横溝正史の世界』 徳間書店 読了。 長らく積ん読だったが、ようやくちゃんと読んだ。いくつか興味深い記述があるのを、箇条書きしておく。添付の数字は該当するページ。 ◆昭和三年、文芸倶楽部の編集長になった正史は、怪談特集の増刊号を出した。そこに…

『剣の八』 J・D・カー ハヤカワ文庫

●『剣の八』 J・D・カー ハヤカワ文庫 読了。 カーの特徴が抑えられた、大人しめの作品。巻末の解説によれば、ロジックに注力したのだという。確かに、犯人につながるシンプルな手がかりがあからさまに描かれているのはカーらしくないようだ。いつものカー…

ヘル・ホローの惨劇

●お願いしていた本が、二方面から届いた。 『ヘル・ホローの惨劇』 P・A・テイラー 論創社 『笑う仏』 V・スターレット 論創社 『佐左木俊郎探偵小説選I』 論創社 『マダム・サラ』 L・T・ミード ヒラヤマ探偵文庫

『飛鳥高探偵小説選I』 論創社

●『飛鳥高探偵小説選I』 論創社 読了。 「孤独」は、ロジック、殺人手段、動機、といった要素がそれぞれちょっとした出来栄え。しかもそれらが短いページに詰め込まれており、全体なかなかの濃度である。 「火の山」は、舞台背景と密接に結びついたネタと犯…

今月の総括

●今月の総括。買った本:九冊読んだ本:十一冊まあ順調と言える。 ●某所から、資料複写代金の通知が届く。ここは前金制なので、明日にでも現金書留を送ることにする。

『銀幕ミステリー倶楽部』 新保博久編 光文社文庫

●『銀幕ミステリー倶楽部』 新保博久編 光文社文庫 読了。 コメントを付けたい作品は多くない。ちと低調であった。 横溝正史「あ・てる・てえる・ふいるむ」は、何気ない会話にふいと入り込んだ悪魔、という着想がいい。霞流一「首切り監督」は、基本となる…

『金庫と老婆』 P・クェンティン ポケミス

●『金庫と老婆』 P・クェンティン ポケミス 読了。 表題作は傑作と言っていい。文字通り金庫と老婆とを題材にして、特上のサスペンスを紡いでみせる。内容について詳しいことは書かない。他に気に入った作品は、このネタこの内容なら十分長編にもなり得る「…

『忍法創世記』 山田風太郎 出版芸術社

●『忍法創世記』 山田風太郎 出版芸術社 読了。 「忍法弓張月!」 「あふ!」 わははははは。いやあ、めちゃめちゃ面白いぞ。 ひどく作り物めいた作品、と書くとネガティブなニュアンスを帯びそうだがそうではない。作中の全ての要素、すなわち人物造形も彼…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第四回

●書店に寄って本を買う。 『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』 T・ゴス ハヤカワSFシリーズハヤカワSFシリーズを買うのは初めてだ。 ●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第四回をやる。今回は第一巻の収録作から「恐怖…

『藤雪夫探偵小説選II』 論創社

●昨日の読書会の文字起こしと整理とで大分時間がかかってしまった。 ●『藤雪夫探偵小説選II』 論創社 読了。 やはりこの作家の、地道、素朴、堅実な作風は好みである。ただし第一巻でも感じたことだが、時折挿入される情景描写が冗長に思えることがなくは…

第二回オンライン横溝読書会「不死蝶」

●第二回オンライン横溝読書会を開催した。課題図書は「不死蝶」。雑誌『平凡』で、昭和二十八年六月から連載された作品である。参加者は私を含めて六名。そのうちお一人が初参加であった。 ●会ではネタバレ全開だったのだが、このレポートでは当然その辺りは…

『悲しい毒』 B・コッブ 論創社

●『悲しい毒』 B・コッブ 論創社 読了。 おお、これこれ、ってなもんである。これぞミステリの面白さ。十個のカクテルグラスがその時どこにあったのか。バーマン警部補はグラスひとつひとつについて丹念に聞き取り調査を重ねてゆく。毒の入ったグラスが明ら…

『不死蝶』 横溝正史 角川文庫

●『不死蝶』 横溝正史 角川文庫 読了。 前回読んだのは十二年前。今週末にオンライン横溝読書会が開催され、表題作が課題図書であることから再読した。感想はレポートと兼ねて読書会後に書く。 せっかく手に取った本だから、ついでに同時収録の「人面瘡」も…

『香住春吾探偵小説選I』 論創社

●『香住春吾探偵小説選I』 論創社 読了。 基本的にユーモアミステリを書く作家なのだという。「近眼奇談」は落語の「三年目」に、「金田君の悲劇」は同じく落語の「粗忽長屋」に通じるような、とぼけた可笑しさがある。「推理ごっこ」はほとんど小噺だが、…

『約束』 F・デュレンマット ハヤカワ文庫

●『約束』 F・デュレンマット ハヤカワ文庫 読了。 のっけから、廃人となった元警部が登場する。語り手の、これも引退した元警官によると彼は天才的な名警部だったらしい。それがどうしてこんな有様になったのか。最初から破局が明示されている訳だ。 かの…

『別冊・幻影城 NO.2 日影丈吉』 幻影社

●『別冊・幻影城 NO.2 日影丈吉』 幻影社 読了。 「真赤な子犬」 読者は真相を知っている序盤の事件。そこに奇妙な異物が混入する。それが真赤な子犬である。子犬が物語全体でどういう役割を果たすのかはっきりしないまま、事件は次第に捻れてゆく。 中…

『蜘蛛と蠅』 F・W・クロフツ 創元推理文庫

●『蜘蛛と蠅』 F・W・クロフツ 創元推理文庫 読了。 今回のフレンチは少々趣が違うようだ。なにしろ初手は私的な立場で、事件が起きた地元警察と対立する見解でもって捜査に当たるのである。結末部分でも(伏字)かったし。 地元警察はトニー青年を逮捕す…

『竹村直伸探偵小説選I』 論創社

●『竹村直伸探偵小説選I』 論創社 読了。 冒頭の謎の魅力も、展開の捻りも、意外な真相も、それぞれ高い水準にある作品が揃っている。作品の特徴は、しばしば事件の謎ではなく人間の謎を扱っていること。これがまた秀逸である。 たとえば「霧の中で」の、見…

今月の総括

●今月の総括。買った本:六冊読んだ本:十一冊買った本は出版社直販と私家版のネット通販ばかりで、リアル書店で買った本は一冊もないのであった。