累風庵閑日録

本と日常の徒然

2021-01-01から1年間の記事一覧

『延原謙探偵小説選II』 論創社

●『延原謙探偵小説選II』 論創社 読了。 わずか数ページの、しかも捻りや切れ味で勝負するタイプではない掌編が多い。コメントを付けたいと思う作品は少ない。一番気に入ったのが「カフェ為我井の客」である。主人公の奇人為我井(ためがい)君が醸し出す…

『幸運な死体』 C・ライス ハヤカワ文庫

●『幸運な死体』 C・ライス ハヤカワ文庫 読了。 事件そのもの複雑さと展開の派手さとが読みどころ。様々な出来事がどこでどうつながっているのかさっぱり分からない混沌とした状況に加えて、幽霊騒動まで持ち上がる。いつもならお馴染み三人組の活躍が読み…

『飛鳥高探偵小説選V』 論創社

●『飛鳥高探偵小説選V』 論創社 読了。 メインの長編「ガラスの檻」は、昭和サラリーマン哀話といったところ。事件とその展開とは面白いが、その一方で身につまされて読むのがしんどくもある。作中で描かれている空気感や人間関係の構造は、時代が違えど現…

『祕密第一號 他一篇』 改造社

●『祕密第一號 他一篇』 改造社 読了。 昭和五年に刊行された、世界大衆文学全集の第十一巻である。表題作、シドニイ・ホルラア「祕密第一號」はなかなかご機嫌な通俗スリラー。悪の秘密結社と主人公の青年との闘争劇が、早いテンポで描かれる。とにかく分か…

今月の総括

●昨日まで読んでいた論創社の飛鳥高を中断して、今日から別の本を読み始めた。飛鳥高がつまらないわけではなく、なんとなくの気まぐれである。 ●今月の総括。買った本:十二冊読んだ本:十冊 今月の創元推理文庫の、チェスタトンとディヴァインとをまだ買え…

『オールド・アンの囁き』 N・マーシュ 論創社

●『オールド・アンの囁き』 N・マーシュ 論創社 読了。 一見平和な田舎の村で起きた殺人に、ロデリック・アレン主任警部が挑む。物語の流れは、地道に手がかりを集め堅実に推理を積み重ねてゆくオーソドックスなスタイルで、読んでいて実に居心地がいい。 …

『鮎川哲也探偵小説選III』 論創社

●『鮎川哲也探偵小説選III』 論創社 読了。 ジュブナイル集である。いい歳したおっさんが読んで本気で楽しめるものではないけれども、ジュブナイルなりの面白さがあるわけで。それに、そもそも本書の意義は、今まで単行本未収録だった作品の数々が読める…

『マクシミリアン・エレールの冒険』 H・コーヴァン 論創社

●『マクシミリアン・エレールの冒険』 H・コーヴァン 論創社 読了。 なにしろ十九世紀後半の作品だから、ロジックや伏線の妙味を期待してはいけない。最初からそういうものだとわきまえて臨むと、これがなかなか楽しい読物で。帯にデカデカと書いてあるよう…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第十三回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第十三回として、第三巻の続きを読む。今回は「シヤアロツク・ホウムズの想ひ出」から、後半の五編を読んだ。 今更感想でもないので、一言だけ。「かたわ男」の名前ネタと「海軍條約文書事件」のベルのネタ…

『織姫かえる』 泡坂妻夫 文藝春秋

●『織姫かえる』 泡坂妻夫 文藝春秋 読了。 宝引の辰捕者帳の、文庫になっていない最終巻である。ミステリとしては、という視点はどうも違うようだ。むしろ事件とその解決とは脇に除けられている。会話はなんともお気楽呑気太平楽だし、事件を語る筆に陰惨さ…

ドーカス・デーン

●本日は文学フリマ東京が開催される。神保町横溝倶楽部さんで、同人誌『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集』を委託頒布するので、浜松町駅で合流して手渡す。その後私は自分なりの買物をして、会場を離脱。 ●今回買った本。 『『新青年』趣味XXI』…

第六回オンライン横溝正史読書会『壺中美人』

●第六回オンライン横溝正史読書会を開催した。課題図書は『壺中美人』およびその原型短編『壺の中の女』である。原型版は昭和三十二年に雑誌『週刊東京』に連載された。それを改稿して長編化したものが『壺中美人』で、初刊は昭和三十五年の東京文藝社版であ…

『天皇の密使』 J・P・マーカンド 角川文庫

●『天皇の密使』 J・P・マーカンド 角川文庫 読了。 「ミスター・モトの冒険」という副題が付いている。舞台設定は満州国成立後の中国、日ソ対立が国際的注目を受けていた時期である。視点人物はアメリカの青年ゲーツ。心に屈託を抱いて、モンゴルに行こう…

『薄灰色に汚れた罪』 J・D・マクドナルド 長崎出版

●『薄灰色に汚れた罪』 J・D・マクドナルド 長崎出版 読了。 トラヴィス・マッギーシリーズを読むのは始めてである。人気シリーズだったというから、手慣れた感じで書かれた私立探偵小説の派生形だと思っていた。ところがその予想は大きく外れ、実際は土地…

『花の通り魔』 横溝正史 徳間文庫

●『花の通り魔』 横溝正史 徳間文庫 読了。 前回読んだのは九年前。論創社の『横溝正史探偵小説選IV』に収録されている、短い初出バージョンを読んだのは去年である。今回は、来週に予定されている横溝正史オンライン読書会に向けた準備である。読書会の課…

『渡辺啓助探偵小説選II』 論創社

●『渡辺啓助探偵小説選II』 論創社 読了。 いくつか気に入った作品にコメントを付けておく。起承転結の転がお見事な「黒猫館の秘密」、劇団の仕掛けが意外な「モンゴル怪猫伝」、そういう意外性が仕掛けられていること自体が意外だった「女王の浴室」。 結…

『ブランディングズ城の夏の稲妻』 P・G・ウッドハウス 国書刊行会

●『ブランディングズ城の夏の稲妻』 P・G・ウッドハウス 国書刊行会 読了 ウッドハウスはもう飽きた。味わいがみんな一緒なのだよ。国書刊行会の本を一通り買ってあるからそれなりの数の積ん読はあるけれども、もういいから読まずに処分してしまおうかとも…

『川野京輔探偵小説選II』 論創社

●『川野京輔探偵小説選II』 論創社 読了。 コメントを付けたいと思える作品は多くない。気に入ったのは以下の辺り。予想を超える展開が奇天烈な「夜行列車の見知らぬ乗客」、ビルが消えてしまうという謎の設定が魅力的な「消えた街」、真相が判明するきっ…

今月の総括

●今月の総括。買った本:十一冊読んだ本:十冊 某所発行の私家版書籍がまだ届かない。どうやら既に発行されてはいるようなのだが。やきもきすることである。

『家蠅とカナリア』 H・マクロイ 創元推理文庫

●『家蠅とカナリア』 H・マクロイ 創元推理文庫 読了。 充実した読書時間であった。多くの伏線とそれらの解釈とが本書の魅力のひとつ。結末で、あの記述にはそんな意味があったのかと判明する面白さよ。中でも作者が前面に出して題名にもなっている、家蠅と…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第十二回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第十二回として、第三巻を読み始める。今回は「シヤアロツク・ホウムズの想ひ出」から、前半の六編を読んだ。 今更ホームズものの感想でもないから少しだけ。「白銀號事件」は過去に何度も読んだからミステ…

『正直者ディーラーの秘密』 F・グルーバー 論創社

●『正直者ディーラーの秘密』 F・グルーバー 論創社 読了。 毎度おなじみ、といった趣でさっと読めるお手軽編。物語の軽快さとキャラクターの面白さとを楽しむ作品である。キャラクターの例としては、異色の経歴を持つ警官で通称生け捕りのマリガン、ジョニ…

『<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件』 A・R・ロング 論創社

●『<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件』 A・R・ロング 論創社 読了。 登場人物の造形がお見事。語り手のパイパーは現実的でユーモアもあり、欠点も含めて自分自身を冷静に把握している。ちょっとした虚栄心や真相に対する好奇心や、不安や恐れといった心の動…

『鉄道エッセイコレクション』 芦原伸編 ちくま文庫

●『鉄道エッセイコレクション』 芦原伸編 ちくま文庫 読了。 「「読み鉄」への招待」という副題が付いている。列車、駅、時刻表といったテーマ毎にそれぞれいくつかのエッセイを収録したアンソロジーである。この手の本を読むとき、日本各地の鉄道が通ってい…

『渡辺啓助探偵小説選I』 論創社

●『渡辺啓助探偵小説選I』 論創社 読了。 昨日の日記に書いたノンフィクションを少し読んだら気分が変わったので、予定を変更してこっちを読み終えることにした。ねっとりとした変格探偵小説の書き手というイメージだったが、本書では予想外の軽妙な作風が…

リハビリとしてのノンフィクション

●あともう少しで一冊読み終えるところで、頭がフィクション疲れを起こしてしまった。残りは数十ページしかないが、もう読めない。架空の物語を頭に受け入れる気にならない。リハビリのため、ノンフィクションを手に取ることにする。フィクションとノンフィク…

『前後不覚殺人事件』 都筑道夫 光文社文庫

●『前後不覚殺人事件』 都筑道夫 光文社文庫 読了。 散りばめられた雑学は楽しく、文体の工夫やちょっとした仕掛けには感心する。いかにも都筑道夫らしい懲り様である。だがこの真相はちょっとどうも…… 滝沢紅子シリーズはこの一冊しか手元に無い。面白かっ…

『不思議を売る男』 G・マコーリアン 偕成社

●『不思議を売る男』 G・マコーリアン 偕成社 読了。 ふとしたことから古道具屋で働き始めた奇妙な男、MCC・バークシャー。店を訪れた客が売り物に興味を示す度に、彼はその品物にまつわる物語を語りだす。という設定の連作短編集。全体を覆う枠組みがひ…

『鮎川哲也探偵小説選II』 論創社

●『鮎川哲也探偵小説選II』 論創社 読了。 「冷凍人間」 犯罪組織を抜けようとして制裁された男。製氷会社の冷凍室で凍死させられそうなところを、彼は危うく逃げ出す。しかしその影響で体が凍ったままの冷凍人間になってしまった。組織に対する冷凍人間の…

『一瞬の敵』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫

●『一瞬の敵』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫 読了。 家出した娘を連れ戻して欲しい。そんな単純な依頼は、読み進めるにしたがって次第に様相を変えてゆく。事件は拡大し複雑化し、多くの人の関わりが見えてくる。主人公リュウ・アーチャーは現在進行形の事…