累風庵閑日録

本と日常の徒然

2021-01-01から1年間の記事一覧

『死の十三楽章』 鮎川哲也編 講談社文庫

●『死の十三楽章』 鮎川哲也編 講談社文庫 読了。 クラシック音楽をテーマにしたミステリアンソロジーである。私はそっち方面はまるで知らんので、音楽に夢中になる登場人物達にどうも共感できない。そうなると、同じような題材で同じように叙情味が勝った作…

『ドイル全集3』 C・ドイル 改造社

●『ドイル全集3』 C・ドイル 改造社 読了。 「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第十六回として、第三巻を読み終えた。最後の作品は「クルムバアの悲劇」である。訳者は延原謙。以前別の本で読んだときはあまり感銘を受けなかったけれども、再…

『ボニーとアボリジニの伝説』 A・アップフィールド 論創社

●『ボニーとアボリジニの伝説』 A・アップフィールド 論創社 読了。 正直なところ、ミステリとしての魅力はあまり感じなかった。この本の面白さは、アボリジニと白人との、時に友好的で時に緊張をはらんだ関係にある。ふたつの民族ふたつの文明の狭間に、興…

『追われる男』 G・ハウスホールド 創元推理文庫

●『追われる男』 G・ハウスホールド 創元推理文庫 読了。 ちょいとしんどい本であった。つまらなくて読み進めるのがしんどいのとはまるで逆で、主人公の過酷な境遇とひりひりするような緊迫感とがしんどいのである。後半になると舞台はほとんど固定されて動…

『黒き瞳の肖像画』 D・M・ディズニー 論創社

●『黒き瞳の肖像画』 D・M・ディズニー 論創社 読了。 老女の遺した日記によって、彼女の少女時代からの人生をたどる。それなりに起伏のあるメロドラマで下世話な面白さはあるが、ミステリの面白さはない。というのが終盤までの感想である。 だが読み終え…

『最後の一撃』 E・クイーン ハヤカワ文庫

●『最後の一撃』 E・クイーン ハヤカワ文庫 読了。 そもそもの発端から解決までに半世紀かかるという期間設定がダイナミックで、関係者の後年の情況を読むと諸行無常……と思う。そりゃあクイーン青年も歳をとるわけだ。 実は(伏字)だったという意地悪クイ…

『姿三四郎』 富田常雄 新潮文庫

●『姿三四郎』 富田常雄 新潮文庫 読了。 日本伝紘道館柔道の創始者矢野正五郎の活躍をいわば前史編として描き、本編に至って彼の弟子で柔道の天才姿三四郎の成長と闘いとをつづる大長編。これがもう、はちゃめちゃに面白い。 ベタな展開をどんどん盛り込ん…

ボニーとアボリジニの伝説

●今読んでいる長編小説がはちゃめちゃに面白い。予定では読了までに十日かかるはずだったが、あまりの面白さにページがぐいぐい進む。この分だとあと三日、トータル八日間で読了できそうな勢いである。 ●定期でお願いしている本が届いた。 『黒き瞳の肖像画…

更新できない

●今日から上中下三巻本の長編を読み始める。千五百ページほどあるこいつを読むのに、私のペースでは十日ほどかかるだろう。そのため、当分の間読了日記の更新はできなくなる。あしからず。

『消える魔術師の冒険』 E・クイーン 論創社

●『消える魔術師の冒険』 E・クイーン 論創社 読了。 ラジオドラマ集第四弾である。今回はなんと脚本から直接訳したそうで。こんな本が読めるのも熱心な研究者、翻訳者のおかげである。 収録作中のベストは「不運な男の冒険」で、意外性も十分だし(伏字)…

『キング・コング』 E・ウォーレス/M・C・クーパー 角川文庫

●『キング・コング』 E・ウォーレス/M・C・クーパー 角川文庫 読了。 原作小説ではなく脚本からのノベライズである。巻末解説によれば実際の筆者はデロス・W・ラブレーだそうで。どのバージョンであれ映画を観たことがないので、本書で初めてキング・コ…

『嘘は刻む』 E・フェラーズ 長崎出版

●『嘘は刻む』 E・フェラーズ 長崎出版 読了。 途中まではちとしんどかった。好みではない展開である。裏面の事情を知っている者が、それを喋らないことで物語を維持する作劇法は嫌いだ。ここに手がかりがあるけど今は詳しいことを読者に教えない、なんて書…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第十五回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第十五回として、第三巻の続きを読む。今回は「歸つて來たシヤアロツク・ホウムズ」から、後半の六編を読んだ。 簡単なコメントをすこしだけ。「第二の血痕」の幕切れの台詞がカッチョイイ。「踊る人形」の…

Q夫人と猫

●今日は本を読まずに小休止。今月は順調に本を読めていたのだが、ちょいと読み過ぎて頭がフィクション疲れを起こしてしまった。それに、昨日開催されたオンライン横溝正史読書会のレポートを書く時間も必要である。 レポートの進捗は、録音データの文字起こ…

第七回オンライン横溝正史読書会『蝶々殺人事件』

●第七回オンライン横溝正史読書会を開催した。課題図書は『蝶々殺人事件』で、昭和二十二年から翌年にかけて雑誌『ロック』に連載された作品である。参加者は私を含めて十名。早い段階で参加枠が全て埋まる盛況であった。 ●会ではネタバレ全開だったのだが、…

『ネロ・ウルフの災難 外出編』 R・スタウト 論創社

●『ネロ・ウルフの災難 外出編』 R・スタウト 論創社 読了。 安定の面白さでさくさく読める。ウルフとアーチーのキャラクターを楽しみ、ふたりの間に交わされる会話を楽しむ、という読み方をしている。緻密なロジックや巧妙な伏線は無いけれども、それが欠…

『佐左木俊郎探偵小説選II』 論創社

●『佐左木俊郎探偵小説選II』 論創社 読了。 佐左木俊郎のファンや研究者にとっては大きな意義のある本であろう。巻末エッセイや編者解題を読むと、この本が実に丁寧に作られていることが分かる。だが、残念ながら好みに合って面白く読めた作品は少ない。 …

『キング・コングのライヴァルたち』 M・パリー編 ハヤカワ文庫

●『キング・コングのライヴァルたち』 M・パリー編 ハヤカワ文庫 読了。 フィリップ・ホセ・ファーマー「キング・コング墜落のあと」は、キング・コング事件が現実に起きたという設定で、事件に関係した人間達の右往左往と、事件に関係なく営まれる日常とを…

『魔術師が多すぎる』 R・ギャレット ハヤカワ文庫

●『魔術師が多すぎる』 R・ギャレット ハヤカワ文庫 読了。 科学技術の代わりに魔法が幅を利かしている現代ロンドンで、魔法によって封印された部屋で起きる密室殺人。謎解きミステリとして成立するように、魔法でできることにきちんと制限を設けてある。そ…

『探偵小説五十年』 横溝正史 講談社

●『探偵小説五十年』 横溝正史 講談社 読了。 ちゃんと読んでない気がしたので、読んだ。「途切れ途切れの記」正・続編が面白い。読みながら数々の「たられば」を想像していた。乱歩との相性がもう少し悪く、「トモカクスグコイ」の電報がなければ、正史は投…

『秘められた傷』 N・ブレイク ポケミス

●『秘められた傷』 N・ブレイク ポケミス 読了。 二部構成の前半は、言っちゃあ悪いが特に特徴のないメロドラマ。祖国アイルランドを訪れた英国人作家が、ふとしたことから西部の寒村に滞在することになる。そこでの日々の生活と、周囲の人々との関係が語ら…

『怪盗ニック全仕事2』 E・D・ホック 創元推理文庫

●『怪盗ニック全仕事2』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。 気に入った作品は以下のようなところ。何を盗むかこそがポイントの「空っぽの部屋から盗め」、伏線がしっかりしている「サーカスのポスターを盗め」、展開の起伏がお見事な「石のワシ像を盗め」…

『甲賀三郎探偵小説選IV』 論創社

●『甲賀三郎探偵小説選IV』 論創社 読了。 メインの長編「姿なき怪盗」は、起伏が激しく展開の早い快作。細けえこたあいいんだよの精神で、甲賀三郎の筆に流されていけばよろしい。あえて書くなら、敵の首領がほとんど背景に退いているので、主人公対悪漢…

『ベッドフォード・ロウの怪事件』 J・S・フレッチャー 論創社

●『ベッドフォード・ロウの怪事件』 J・S・フレッチャー 論創社 読了。 まず、物語を転がす原動力として偶然を積極的に活用する作風を、それこそがフレッチャーだと受け入れることにする。せっかく買った本なのだから、少しでも楽しめる読み方をした方がい…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第十四回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第十四回として、第三巻の続きを読む。今回は「歸つて來たシヤアロツク・ホウムズ」から、前半の七編を読んだ。訳者は上塚貞雄である。「空家の冒險」にて、バリツのことを「柔術即ち日本流のレスリング」と…

『忘られぬ死』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『忘られぬ死』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。 章立てが秀逸。第一章は、一年前に自殺した姉ローズマリーのことを妹アイリスの視点で回想する。姉は全てを手に入れていた。美貌も、優雅な身のこなしも、財産も、幸せな結婚も。ところが二章以降…

『佐左木俊郎探偵小説選I』 論創社

●『佐左木俊郎探偵小説選I』 論創社 読了。 メインの長編「狼群」が、意外なほど面白い。政治家暗殺を狙う犯人グループと、組織力にモノを言わせる警察との対決。舞台は房総半島の山林。刻々と変わる状況に応じて都度襲撃計画を修正して臨む犯人側と、とも…

『シャーロック・ホームズの世界』 長沼弘毅 文藝春秋

●『シャーロック・ホームズの世界』 長沼弘毅 文藝春秋 読了。 オーソドックスなシャーロキアン本。扱われているテーマは、ホームズの芝居気、コカイン、変装、電話と電報、医者としてのワトスン、など。第五章「ホームズとピストル」で語られる、ホームズは…

『夢の丘』 A・マッケン 創元推理文庫

●『夢の丘』 A・マッケン 創元推理文庫 読了。 多感で奇矯な文学青年の、幼年期から青年期までの人生録。主に五種類の描写が、前後関係がてんでんばらばらに入り乱れて綴られる。その五種類とは、青年が文学や人生についてあれこれ考える様子と、ロンドンで…

『千両文七捕物帳 第二巻』 高木彬光 捕物出版

●『千両文七捕物帳 第二巻』 高木彬光 捕物出版 第一巻を読んだ経験から、このシリーズはわずかでもミステリ的趣向が含まれていればそれでよしというくらい、ハードルを下げて臨むことにする。「神かくしの娘」は、一応のロジックもあるし心理の綾もある佳品…