累風庵閑日録

本と日常の徒然

2022-01-01から1年間の記事一覧

『太鼓叩きはなぜ笑う』 鮎川哲也 創元推理文庫

●『太鼓叩きはなぜ笑う』 鮎川哲也 創元推理文庫 読了。 三番館シリーズをまとめて読むのは初めてだ。収録作中のベストは、初刊には収録されていなかったという「竜王氏の不吉な旅」であった。犯人の仕掛けがお見事だし、その仕掛けをこういう風に見せた書き…

『恐怖は同じ』 C・ディクスン ポケミス

●『恐怖は同じ』 C・ディクスン ポケミス 読了。 十八世紀末のロンドンを舞台に、主人公の快男児が決闘に謎解きに逃避行にと縦横に活躍する。ちょいと痛快な時代劇である。現代に生きる主人公とヒロインとが、なんだか知らんけど百五十年前にタイムスリップ…

『水底の妖』 R・V・ヒューリック ポケミス

●『水底の妖』 R・V・ヒューリック ポケミス 読了。 狄判事シリーズである。互いに関係があるような無いような複数の事件が、同時並行で語られる。最終的にそれらをきっちり解決してみせる構成力がお見事。密室からの人間消失や死体入れ替わりといった趣向…

『アーマデイル』 W・コリンズ 臨川書店

●『アーマデイル』 W・コリンズ 臨川書店 読了。 コリンズ傑作選の、第六巻から第八巻まで三巻に渡る長編である。主人公は同姓同名のふたりのアラン・アーマデイル。その昔アランAの父親がアランBの父親を殺したことは、アランAしか知らない。Aは固い友…

ジゴマ

●取り寄せを依頼していた本を書店で受け取ってきた。『ジゴマ 上』 L・サジ 国書刊行会『ジゴマ 下』 L・サジ 国書刊行会「ベル・エポック怪人叢書」だと。こりゃまた魅力的な叢書が始まったものである。 ●今月の総括。買った本:九冊読んだ本:十一冊 ●今…

更新しない

●今日から上中下三巻本の長編を読み始めた。私のペースだと読了までに一週間はかかるだろう。という訳で、読了日記は来週半ばまで更新しない。

『ドイル全集 第五巻』 改造社

●『ドイル全集 第五巻』 改造社 読了。 「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十六回として、第五巻で最後に残っていた「ラフルズ・ホー行状記」を読んだ。訳者は石田幸太郎である。 田舎に広大な地所を買い豪邸を建てて引っ越してきた大富豪…

『第三の女』A・クリスティー クリスティー文庫

●『第三の女』A・クリスティー クリスティー文庫 読了。 老人小説である。最近の若い者はけしからんという視点が、物語全体を取り巻いている。クリスティーはどこまで自覚的に、老人のありふれた愚痴を繰り返し書き込んだのだろうか。 ミステリとしては一風…

『時間の習俗』 松本清張 新潮文庫

●『時間の習俗』 松本清張 新潮文庫 読了。 容疑者の鉄壁のアリバイに、三原警部補が挑む。一点だけ、どうしても気になる設定がある。そもそものスタート地点に、合理的な根拠がないのだ。なんとなく引っ掛かるというだけで、警部補は執拗な追求を始める。な…

『ランドルフ・メイスンと7つの罪』 M・D・ポースト 長崎出版

●『ランドルフ・メイスンと7つの罪』 M・D・ポースト 長崎出版 読了。 法の抜け穴を探り、犯罪すれすれのところで依頼人の問題を解決する悪徳弁護士ランドルフ・メイスンのシリーズである。メイスンは、法律の条文を厳密に解釈することで問題を解決する。…

『都市の迷宮』 鮎川哲也/島田荘司編 立風書房

●『都市の迷宮』 鮎川哲也/島田荘司編 立風書房 読了。 「ミステリーの愉しみ」の第四巻である。実にどうも粒揃いの、上出来なアンソロジーであった。以下、いくつか気に入った作品にコメントを付けておく。 気の利いたダイイング・メッセージと着地点の捻…

『ペトロフ事件』 鮎川哲也 講談社大衆文学館

●『ペトロフ事件』 鮎川哲也 講談社大衆文学館 読了。 読んだタイミングがちょうどよかったと思える本が時折ある。本書もその一例で、鮎川哲也の長編をほとんど読んでだいたいの味わいを知ったつもりになっていた今だからこそ、この着地点は意外だった。また…

『笑ってジグソー、殺してパズル』 平石貴樹 集英社

●『笑ってジグソー、殺してパズル』 平石貴樹 集英社 読了。 冒頭に読者への挑戦が挿入されている。全四章のうち第三章の終わりまでで必要なデータが出揃うという。こうなると自ずと期待値も高まろうというものだ。で、読了後の結論としては、納得はするが満…

『列車探偵ハル』 M・G・レナード&S・セッジマン ハヤカワ・ジュニア・ミステリ

●『列車探偵ハル』 M・G・レナード&S・セッジマン ハヤカワ・ジュニア・ミステリ 読了。 「王室列車の宝石どろぼうを追え!」という副題が付いている。実にどうも、ちゃんとしたミステリであった。伏線があって捻りがあって、レッド・へリングがあって謎…

『ウィンストン・フラッグの幽霊』 A・R・ロング 論創社

●『ウィンストン・フラッグの幽霊』 A・R・ロング 論創社 読了。 富豪の遺産相続を巡る二人の女性間の係争が、ひとつの軸となっている。複数の遺言状、人の生死、結婚したタイミング、そういったいくつもの要素がからまりもつれあって、仮定と場合分けの迷…

『ケンカ鶏の秘密』 F・グルーバー 論創社

●『ケンカ鶏の秘密』 F・グルーバー 論創社 読了。 もう何冊も読んでいるので、伏線の妙だのロジックだのを期待するシリーズではないことは最初から分かっている。結末があまりにあっけないのも含めて、いつものグルーバーである。レギュラーコンビの活躍を…

『ホッグズ・バックの怪事件』 F・W・クロフツ 創元推理文庫

●『ホッグズ・バックの怪事件』 F・W・クロフツ 創元推理文庫 読了。 居間でくつろいでいた人物が、家人がちょっと目を離した数分後には部屋着、室内履きのまま失踪した。なるほど怪事件である。捜査を担当するのはお馴染みフレンチ警部。彼は何度も何度も…

今月の総括

●今月の総括。買った本:九冊読んだ本:十一冊 今月はもう一冊買う予定だったのだが、書店に行くタイミングがつかめなかった。

『タワーの下の子どもたち』 仁木悦子・大井三重子 論創社

●『タワーの下の子どもたち』 仁木悦子・大井三重子 論創社 読了。 仁木悦子少年小説コレクションの第三巻である。今回は大半が童話なので、読んで面白いかどうかとは別次元の本である。単行本未収録どころか未発表の作品まで収録されていて、そもそも読める…

『或る豪邸主の死』 J・J・コニントン 長崎出版

●『或る豪邸主の死』 J・J・コニントン 長崎出版 読了。 村の屋敷で起きた殺人事件に、治安判事サンダーステッド大佐が取り組む。ところがこの大佐殿、お世辞にも名探偵とはいい難い。関係者の中に自分の身内がいると分かると、真相解明よりも身内と自分と…

『クロームハウスの殺人』 G.D.H&M・コール 論創社

●『クロームハウスの殺人』 G.D.H&M・コール 論創社 読了。 探偵役の主人公はミステリに興味はあるものの探偵活動の経験はなく、論理的な推理もあまりお得意ではないようだ。とある人物を、人相が悪いという理由で最重要容疑者に据えたりする。犯人設…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十五回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十五回として、第五巻から短編三作品を読んだ。訳者は全て和気律次郎である。「分解機」はチャレンジャー教授もので、教授の破天荒な造形が活かされている好編。十ページほどの分量を切れ味で読ませる。…

第十回オンライン横溝正史読書会『支那扇の女』

●第十回オンライン横溝正史読書会を開催した。課題図書は『支那扇の女』。昭和三十五年に単行本として刊行された作品である。併せて原形となった同題短編と、さらにその祖型である短編『ペルシャ猫を抱く女』も対象とする。 参加者は私を含めて十人。会では…

『支那扇の女』 横溝正史 角川文庫

●『支那扇の女』 横溝正史 角川文庫 読了。 明日開催される、オンライン横溝正史読書会の課題図書である。対象は表題作だけなのだが、一冊の本として通読するために同時収録の「女の決闘」も読んだ。どうもこれはあっけなくて、あまり高い点数は差し上げられ…

『シャーロック・ホームズの挨拶』 長沼弘毅 文藝春秋

●『シャーロック・ホームズの挨拶』 長沼弘毅 文藝春秋 読了。 残念ながら、今回はあまり興味を惹かれない題材が多かった。読んだと称するのが申し訳ないほど、目が活字の上を滑ってゆくばかりであった。第四章「ベイカー・ストリートの部屋を覗く」で提示さ…

『相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫

●『相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫 読了。 事前情報一切なしに手に取ったので、この作家がどういう人物なのかは知らん。読んだ感じでは、なかなか手慣れていてそつのない書きっぷりである。刊行は昭和四十八年。 主人公相良一平はきりりとした男前の同…

『心地よく秘密めいた場所』 E・クイーン ポケミス

●『心地よく秘密めいた場所』 E・クイーン ポケミス 読了。 クイーンは最後までクイーンであった。数字の九への執拗なこだわりも、人間関係を制限する奇妙な条件も、動かされた机という題材も、探偵クイーンと手掛かりとの関係も、どれもこれもどこかで読ん…

『犯罪都市』 川本三郎編 平凡社

●『犯罪都市』 川本三郎編 平凡社 読了。 「モダン都市文学」の第七巻である。近代になって成立した、従来の村落共同体とは異なる都市空間における犯罪をテーマにしたアンソロジーである。本書の大きな意味は、横溝正史が参加したリレー小説「諏訪未亡人」お…

『デイヴィッドスン事件』 J・ロード 論創社

●『デイヴィッドスン事件』 J・ロード 論創社 読了。 犯人の真の目的が(伏字)だということは、割と早い段階で想像できた。それに気づくと、全体のおおまかな構造が浮かんでくる。したがって興味の焦点は真相の意外性にではなく、具体的な犯行の段取りにあ…

『マッド・サイエンティスト』 S・D・シフ編 創元推理文庫

●『マッド・サイエンティスト』 S・D・シフ編 創元推理文庫 読了。 題名の通り、サイエンスにのめり込んで一線を踏み越えた者達をテーマにしたアンソロジーである。三十年以上昔に読んで以来の再読で、よほど印象に残った作品以外はきれいさっぱり忘れてい…