累風庵閑日録

本と日常の徒然

2022-01-01から1年間の記事一覧

『サンセット77』 R・ハギンズ ポケミス

●『サンセット77』 R・ハギンズ ポケミス 読了。 私立探偵スチュアート・ベイリーが主人公の中編が三編収録されている。詳しくは知らんが、もとはテレビドラマらしい。とはいっても、本書はノベライズではないそうな。 第一話「死は雲雀に乗って」がなか…

ギブアップ

●昨日読み始めた本を途中でギブアップした。もうしんどくて読めない。具体的な書名は避けるが、初刊本の帯には「探偵人情ばなし」と謳ってあったという。私の嫌いなお涙頂戴式湿っぽさがないのは助かるけれども、それでもしんどい。 どこにでも転がっている…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十四回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十四回として、第五巻から中編「マラコット深海」を読んだ。訳者は和気律次郎である。 予備知識なしで手に取った。海洋冒険小説のつもりでいたら、なんと主人公が遭難してから始まる(伏字)ネタだった…

『闇の展覧会-罠』 K・マッコーリー編 ハヤカワ文庫

●『闇の展覧会-罠』 K・マッコーリー編 ハヤカワ文庫 読了。 怪奇小説アンソロジーの第二巻である。ラッセル・カーク「ゲロンチョン」は、完全無欠なる邪悪を体現する闇の司祭ゲロンチョンの恐怖を描く。こちらでいろいろ解釈が必要な捻った作品よりも、こ…

横溝正史エッセイコレクション

●予約していた本が入荷したという連絡をもらったので、受け取ってきた。『横溝正史エッセイコレクション1』 柏書房『横溝正史エッセイコレクション2』 柏書房『横溝正史エッセイコレクション3』 柏書房 ●ついでに、その書店で見かけた本を衝動買い。『小…

『悪魔の素顔』 中林節三 榊原出版

●『悪魔の素顔』 中林節三 榊原出版 読了。 ヌードモデルの不審な自殺とストリッパーの誘拐事件に、明石弁護士が挑む。謎の美女マタマ夫人は、事件にどう関わっているのか。マタマとは、真珠をそう読ませているそうで。 刊行は昭和三十三年である。内容は時…

『誰がロバート・プレンティスを殺したか』 D・ホイートリー 中央公論社

●『誰がロバート・プレンティスを殺したか』 D・ホイートリー 中央公論社 読了。 捜査ファイル・ミステリーの第二巻である。今回は関係者の手紙を中心に構成されており、捜査ファイルと名乗るのはちと苦しい。前書きによると、この変更は著者自身の意向らし…

『怪盗ニック全仕事5』 E・D・ホック 創元推理文庫

●『怪盗ニック全仕事5』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。 「クリスマス・ストッキングを盗め」は、ニックシリーズでクリスマスストーリーを書くとなるほどこうなるのか、という佳品。「マネキン人形のウィッグを盗め」は、今何が起きているのかの興味で…

『口笛探偵局』 仁木悦子 出版芸術社

●『口笛探偵局』 仁木悦子 出版芸術社 読了。 「仁木悦子少年小説コレクション」の第二巻である。主人公が悪漢の悪だくみに気付く。危機感を抱いた悪漢が主人公を襲い、殺そうとする。危ういところで助けが駆け付けめでたしめでたし。というパターンがやけ多…

『霧に溶ける』 笹沢左保 光文社文庫

●『霧に溶ける』 笹沢左保 光文社文庫 読了。 これは傑作。事件の広がりっぷりが大変なものである。それぞれの事件に興味深い状況が設定されているし、解決もシンプルで効果的。なにより、奇怪奇天烈な真相が素晴らしい。 前半のある描写にちょっと違和感が…

『猿の肖像』 R・A・フリーマン 長崎出版

●『猿の肖像』 R・A・フリーマン 長崎出版 読了。 事件そのものは地味である。表面的には、犯罪が発覚した時点で犯人は明らかなように見える。なのになぜ、博士はこれほどまでに事件に時間と労力とを割くのか。犯人の正体よりも、博士の調査の意図がどこに…

『悪魔を見た処女』 E・デリコ/C・アンダーセン 論創社

●『悪魔を見た処女』 E・デリコ/C・アンダーセン 論創社 読了。 表題作はなかなかの快作。巻末解説に指摘されているように、確かにロジカルな興味には乏しいし、この真相からするとあれれれ、と思う記述もある。だが、犯人設定のアイデアには大いに満足で…

『秘密箱からくり箱』 都築道夫 光文社文庫

●『秘密箱からくり箱』 都築道夫 光文社文庫 読了。 短編六編と全体の半分を占める中編とで構成されている怪奇小説集である。短編で気に入ったのは、奇妙な捻りの「昇降機」と、あまりにも異様な展開の「無人の境」。中編「朱いろの闇」は、娯楽小説から遠い…

『悪魔はすぐそこに』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

●『悪魔はすぐそこに』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫 読了。 上手い。まったく上手い。犯人の設定も、手掛かりの出し方も、手掛かりの真の意味から読者の目を逸らす手際も、実に上手い。巻末解説にあるように、再読したら「上手さ」がぎゅうぎゅうに詰…

『パズルの王国』 鮎川哲也/島田荘司編 立風書房

●『パズルの王国』 鮎川哲也/島田荘司編 立風書房 読了。 「ミステリーの愉しみ」の第三巻である。 以下、気に入った作品と気に入ったポイントをいくつか挙げておく。島田一男「殺人演出」は、軽快な文章としっかり書かれた伏線。いろいろ素朴な部分はある…

今月の総括

●今月の総括。買った本:九冊読んだ本:十冊 下旬までは快調に読めていたのだが、ドイルにてこずったせいで予定以上の冊数にはならなかった。 ●書店に出かけて本を買う。『レオ・ブルース短編全集』 L・ブルース 扶桑社ミステリー

『ブランディングズ城のスカラベ騒動』 P・G・ウッドハウス 論創社

●『ブランディングズ城のスカラベ騒動』 P・G・ウッドハウス 論創社 読了。 ウッドハウスはどれを読んでも構成が驚異的である。個性的な人々が、複雑に影響しあって物語を紡いでゆく。いくらなんでもそんな偶然、なんてツッコミは野暮である。登場人物の性…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十三回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十三回として、第五巻から長編「霧の世界」を読んだ。訳者は横溝正史である。実際はただの名義貸しらしいが。 いやはや、これはしんどかった。内容を一言で表すなら、交霊術は本物だった! 作者の力点が…

『シャーロック・ホームズ秘聞』 長沼弘毅 文藝春秋

●『シャーロック・ホームズ秘聞』 長沼弘毅 文藝春秋 読了。 残念ながら今回はどうも低調であった。世界各地のシャーロキアン達との交流を記した章は微笑ましくはあるけれども、私の興味からはやや外れていた。私がホームズ雑学本に求めるのは、作品を深く理…

『NかMか』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『NかMか』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。 枠組みは単純である。作中の時期は第二次大戦中。海辺の保養地にある「無憂荘」に、ドイツのスパイ組織の重要人物が潜り込んでいるらしい。下宿人として「無憂荘」に滞在し、敵の正体を暴け! 作中…

『サファリ殺人事件』 E・ハクスリー 長崎出版

●『サファリ殺人事件』 E・ハクスリー 長崎出版 読了。 東アフリカの架空の国に遠征に行った狩猟隊のキャンプで殺人が起きる。舞台の特異さが面白い。人を殺すのは殺人犯だけではないのだ。象、サイ、ライオン、バッファローによっても、人は命を失う恐れが…

『米・百姓・天皇』 網野善彦/石井進 ちくま学芸文庫

●『米・百姓・天皇』 網野善彦/石井進 ちくま学芸文庫 読了。 ふたりの歴史学者の対談集である。他の本や論文の内容を前提に語られている部分が多々あって、それを知らない私には荷が重い。どこまで理解できたか覚束ないが、素人が上辺だけをなぞる読み方で…

『猫のミステリー』 鮎川哲也編 河出文庫

●『猫のミステリー』 鮎川哲也編 河出文庫 読了。 題名の通り、猫がテーマのミステリアンソロジーである。登場人物の幼稚さと浅薄さとをまざまざと描き出す南部樹未子「愛の記憶」。人が変わってしまった夫に対する妻の不安と恐れとをねっとりと描く角田喜久…

ブランディングズ城のスカラベ騒動

●徳島県南部、鉄道路線の突端にある阿佐海岸鉄道で、DMV(Dual Mode Vehicle)に乗ってきた。世界初の道路・鉄道両用車という珍奇な乗り物である。 道路を走っている間は、要するにマイクロバスである。鉄道との結節点に差し掛かると、車体下部から鉄道用…

『夜鳥』 M・ルヴェル 創元推理文庫

●『夜鳥』 M・ルヴェル 創元推理文庫 読了。 ルヴェルを読むのは初めてである。残酷だとか恐怖だとかという評をちょいちょい見かけていたのだが、なるほどこういう味か。個別の作品に対するコメントは省略するが、全体私の好みに合っていた。最後にひと捻り…

『鬼の末裔』 三橋一夫 出版芸術社

●『鬼の末裔』 三橋一夫 出版芸術社 読了。 「不思議小説集成」の第二巻である。特に気に入ったのは、不気味さが際立つ以下の三編、「殺されるのは嫌だ」、「白鷺魔女」、「蛇恋」と、物事に執着してしまった人間の愚かさ哀れさ恐ろしさが際立つ「怪獣YUM…

『編集者を殺せ』 R・スタウト ポケミス

●『編集者を殺せ』 R・スタウト ポケミス 読了。 出版社の編集者が殺された。犯人はどうやら、以前会社に原稿を送ってきて出版を打診した人物らしい。名前は分かっているが、本名かペンネームかは不明だし、素性も現住所も連絡先も不明。編集者は、その原稿…

『水晶の栓』 M・ルブラン ハヤカワ文庫

●『水晶の栓』 M・ルブラン ハヤカワ文庫 読了。 四十年ほど昔、あかね書房の少年少女世界推理文学全集で初めて読んだ。以来幾星霜、今回初めて大人向けの訳で読んでみた。するとどうだ、これがもう面白いのなんの。あの頃どうもピンとこなかったのは、ごり…

『鉄道無常』 酒井順子 角川書店

●『鉄道無常』 酒井順子 角川書店 読了。 内容は副題の、「内田百閒と宮脇俊三を読む」の通りである。ふたりの著作の内容をそれぞれの生涯の時系列に合わせて並べて、ときには単独で、ときには両者を比較しながら読んでゆく。 著者はそこに、変化を嫌い失わ…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十二回「滅びた世界」

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十二回として、第五巻から長編「滅びた世界」を読んだ。訳者は大佛次郎である。 四十年ほど昔、子供向けの訳で読んで以来である。当然内容はまるで覚えていないので初読同然。これが予想以上に面白かっ…