累風庵閑日録

本と日常の徒然

『こびとの呪』 東京創元社

●火曜日に、ポケミスの『幻想と怪奇2』を手に取ってぱらぱらとページをめくり、驚愕した(誇張表現)。なんと印刷エラーがあって、エドワード・ルカス・ホワイト「ルクンド」とアンブローズ・ビアース「マクスンの人形」とに、それぞれ白紙のページがあるで…

『ブロンズの使者』 鮎川哲也 徳間文庫

●『ブロンズの使者』 鮎川哲也 徳間文庫 読了。 三番館シリーズの第三巻である。気に入ったのは以下のような作品。手掛かりがシンプルでありながら決定的な表題作「ブロンズの使者」、終盤でとある要素の意味ががらりと変わる「百足」、犯人の狡猾な計画が秀…

『こちら殺人課!』 ホック 講談社文庫

●『こちら殺人課!』 ホック 講談社文庫 読了。 エドワード・D・ホックのシリーズキャラクター、レオポルド警部もののアンソロジーである。気に入った作品は以下のようなところ。この記述が伏線だったのか!という意外性の「港の死」、しがないギャンブラー…

『第三閲覧室』 紀田順一郎 創元推理文庫

●『第三閲覧室』 紀田順一郎 創元推理文庫 読了。 登場人物の多くが癖のある中高年のおっさんなので、読んでいて疲れる。扱われている題材が組織内政治だとか家族の軋轢だとか行政手続きの煩雑さだとか、身に覚えのあることで読んでいてしんどい。 そうはい…

「不知火奉行」

●九月の横溝イベントに向けて、副読本として出版芸術社の『不知火奉行』の表題作を読んだ。テンポの速い展開に軽妙な会話、主人公格のふたりのやり取りも面白く、なかなかの佳品であった。内容の繰り返しになるが、七年半前に読んだ時の日記を再掲しておく。…

『名探偵ホームズとワトソン少年』 A・C・ドイル 論創社

●『名探偵ホームズとワトソン少年』 A・C・ドイル 論創社 読了。 武田武彦が子供向けにリライトしたもので、題名の通りワトソンが少年になっている。「ヴァスカビル家の犬」をリライトした「まぼろしの犬」を読むと、やはりこの作品は情報の出し方も話の盛…

『ヴードゥーの悪魔』 J・D・カー 原書房

●『ヴードゥーの悪魔』 J・D・カー 原書房 読了。 やはりカーといえば不可能興味である。とはいっても第一の事件の真相はあまりに強引。個人的には第二の事件の方が、状況的にも映像としても魅力的であった。ツッコミどころがないわけではない。犯行手段を…

『目黒の狂女』 戸板康二 創元推理文庫

●『目黒の狂女』 戸板康二 創元推理文庫 読了。 中村雅楽探偵全集の第三巻である。表題作「目黒の狂女」は冒頭の謎が強烈。「女形の災難」はいろいろ作り込まれた設定が上出来。「女形と香水」は、これも作り込まれていて秀逸な切れ味がちょっとした小咄のよ…

名探偵ホームズとワトソン少年

●定期でお願いしている本が届いた。『名探偵ホームズとワトソン少年』 A・C・ドイル 論創社 論創海外ミステリが、これでついに三百巻に達した。素晴らしいことである。 ●今月の総括。買った本:六冊読んだ本:十冊

『大迷宮』 横溝正史 ポプラポケット文庫

●『大迷宮』 横溝正史 ポプラポケット文庫 読了。 九月の横溝イベントに向けて、副読本として読んだ。目的は、「夜光虫」との関連を確認することにある。柏書房版で読んでも角川文庫で読んでも構わなかったのだが、せっかく買って積ん読になっていたのでポプ…

『証拠は眠る』 A・フリーマン 原書房

●『証拠は眠る』 A・フリーマン 原書房 読了。 今回二番目に感心したのが、殺人の手段である。なるほど、その手があったか、と思う。しかもその手段を採用したが故に必然的に証拠を残してしまう展開はお見事。今回最も感心したのが、犯行と犯人とを結びつけ…

『ゴルファー シャーロック・ホームズの新冒険』 B・ジョーンズ ベースボール・マガジン社

●『ゴルファー シャーロック・ホームズの新冒険』 B・ジョーンズ ベースボール・マガジン社 読了。 シリーズ前作『~冒険』は短編集だったが、今回は長編である。組織的なインチキ賭けゴルフが横行し、多くのゴルファー達が大金や土地、屋敷を失っていた。…

「金座太平記」その他

●九月の横溝イベントに向けて、隙間時間に関連作品をちょいちょい読んでいる。これまでに「金座太平記」、「妖説孔雀の樹」、「三本の矢」、と読んでいった。「金座太平記」は緋牡丹銀次捕物帳の一編で、「夜光虫」の基本骨格を保ったまま時代小説に仕立て直したもの。…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第三十八回 「愛の二重奏」

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十八回として、第八巻から若い男女の新婚生活を描く「愛の二重奏」を読んだ。何も起きなければさすがに小説にならないが、若夫婦が遭遇する出来事は波乱万丈とは程遠く、ちょっとした起伏程度である。金…

『世界の名探偵コレクション10 エラリー・クイーン』 集英社文庫

●『世界の名探偵コレクション10 エラリー・クイーン』 集英社文庫 読了。 シリーズの第七巻である。四編収録されている小説は、『エラリー・クイーンの冒険』と『エラリー・クイーンの新冒険』とにも収録されている。再読なので感想は省略。新訳版を買って…

『小さな壁』 W・グレアム 論創社

●『小さな壁』 W・グレアム 論創社 読了。 この作品に対するアプローチは、登場人物の感情や価値観や様々な想いに寄り添うようにゆっくり読み進めるのがまっとうな態度なのかもしれない。生来せっかちなので、どうしてもストーリーを追う読み方をしてしまう…

『五つの箱の死』 C・ディクスン 国書刊行会

●『五つの箱の死』 C・ディクスン 国書刊行会 読了。 メインの謎は至ってシンプル。誰にも投入できたはずのない毒がどうやって飲み物に混入されたか。真相もまた単純明快で、私は思い浮かばなくてなるほどと感心したけれども、何かのはずみにぱっとひらめい…

『神変不知火城』 山田風太郎 論創社

●『神変不知火城』 山田風太郎 論創社 読了。 「少年小説コレクション」の第二巻である。後半の時代小説二編が、とにかくもうノリノリでスピーディーで御機嫌であった。どちらかといえば「地雷火童子」の方が好み。地雷火はどこにあるのか、という謎が全体を…

『製材所の秘密』 F・W・クロフツ 創元推理文庫

●『製材所の秘密』 F・W・クロフツ 創元推理文庫 読了。 組織犯罪の全容解明がメインのテーマである。殺人は起きるが、扱いは割と小さい。全体は第一部アマチュア、第二部プロフェッショナルに分かれている。それぞれの主人公は、製材業者の裏の姿に偶然不…

『動く指』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『動く指』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。 一見平穏な田舎の村に、じわじわとはびこる中傷の手紙。事態がだんだんエスカレートし、やがてついに悲劇が起きる。というのがメインだが、それに並行してほぼ同等の重みでメロドラマが語られる。終盤…

『犬のミステリー』 鮎川哲也編 河出文庫

●『犬のミステリー』 鮎川哲也編 河出文庫 読了。 題名の通り、犬テーマのミステリアンソロジーである。気に入った作品は以下のようなところ。佐野洋「放火した犬」は、サスペンスも展開の起伏も程よく適量で、二時間ドラマの原作になりそう。多岐川恭「蝋燭…

「十三の階段/悪霊物語」

●注文していた本が届いた。『十三の階段/悪霊物語』 日下三蔵編 春陽堂書店 ●今月の総括。買った本:十冊読んだ本:十一冊

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第三十七回 「最後の戦艦」

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十七回として、第八巻の短編集「最後の戦艦」から後篇の八編百ページほどを読んだ。前篇は、作者の言葉によると歴史ノンフィクションと小説との中間を目指したようだが、後篇はすっかり小説である。気に…

『夜光虫』 横溝正史 角川文庫

●『夜光虫』 横溝正史 角川文庫 読了。 今月上旬から三週間ほどかけて、隙間時間に細切れで読んでいった。この作品は、九月に大阪で開催される横溝読書会の課題図書である。この読書会は特別開催で、横溝系イベントの第二部として企画されている。 九月だか…

『フランケンシュタインの工場』 E・D・ホック 国書刊行会

●『フランケンシュタインの工場』 E・D・ホック 国書刊行会 読了。 なんとも派手な作品である。本土との連絡手段を絶たれた孤島で、ほい一人死んだ、それもう一人死んだ、とコロコロ殺されてゆく。個々の殺人について深く検討する暇もなく、連続殺人のサス…

『怪奇人造島』 寺島柾史 パール文庫

●『怪奇人造島』 寺島柾史 パール文庫 読了。 巻末の記載によれば、この作品の底本は三一書房の少年小説体系である。だが、それ以外の書誌情報はない。たまたまこの作品は青空文庫にも収録されており、付随する情報によると初出は昭和十二年、雑誌「日本少年…

『災厄の紳士』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

●『災厄の紳士』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫 読了。 登場人物の造形がしっかりしていて、良くも悪くも個性的。そんな彼らが織り成す日常生活が活き活きと描かれ、ミステリだからサスペンスも孕んで面白く、ぐいぐい読める。たとえば主人公格のサラ・…

『七之助捕物帖 第二巻』 納言恭平 捕物出版

●『七之助捕物帖 第二巻』 納言恭平 捕物出版 読了。 三百ページほどの本に二十一編も収録されている。二十ページに満たない作品ばかりなので、伏線を散りばめてロジックで真相に至る構成にするには分量が足りない。かといって捻りと切れ味とで勝負する作風…

『名探偵登場』 山村正夫編 青樹社

●『名探偵登場』 山村正夫編 青樹社 読了。 八人のミステリ作家が合議の上一人の名探偵キャラクターを創造し、彼を主人公にした短編ミステリをそれぞれ書くというアンソロジー。真相があまりにも……な作品や、私の嫌いな人情噺臭が漂う作品があって、個人的な…

『マリンゼー島連続殺人事件』 D・ホイートリー 中央公論社

●『マリンゼー島連続殺人事件』 D・ホイートリー 中央公論社 読了。 捜査ファイル・ミステリーシリーズの第三巻。わずか八十ページほどで連続殺人を描く、なかなかに忙しい作品である。しかも第一の殺人は密室だというにぎやかさ。添付の小道具に手掛かりが…